リーダーになったらこの本 2


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑭10年間でその道のプロになる法  -成功のコツはコツコツにあり-

 

 社会人になったら、誰でもその道のプロになりたいと思うのが普通である。そして、プロになろうと決心し、努力すれば、誰でも相応のプロになれるものである。

 

 そのプロになるコツは、なんと語呂合せのようだが、コツコツと努力を積み重ねることである。別に仕事に直接関連したものでなくてもよいが、何かにマトを定めて、毎日たゆまず努力すれば、たいていのことでプロになれる。まずくてもセミプロになれることは間違いない。その秘訣は簡単で、その目指すテーマについて毎日30分以上勉強することである。ただし、どんなことがあっても一日も休まないことが肝心である。疲れたから、明日まとめて一時間というようでは続かない。

 

 これは習慣化し、やらずにいられなくなってホンモノということである。煙草や晩酌が欠かせないように、最低30分はやらずにいられなくなるようでないとプロにはなれない。社員旅行などで、一人離れて本を読むなどはイヤ味になるが、そんな時には床に入ってそのことについて30分考え、反芻した上で眠りにつくというぐらいになれば、10年たたないうちにその道のプロになれるであろう。

 

第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑬体験を語れば、誰でも名スピーチが  -失敗体験の持つ説得力と共感-

 

 同じ話し方でも、対話ではなく、大勢の人の前でするスピーチのやり方については、また違った工夫がいる。私のように人前で話すことが仕事で、本人はかなり上手になったと思っても、とつとつと自分の体験をなまで話す人にはかなわないものである。それほど自分自身の体験を話すことは説得力があるものである。しかし、その体験談も、とんとん拍手にうまくいったという自慢話だけではハナにつき、時には反感を招くこともある。

 

 そうではなく、幾多の失敗を重ねた末に、ようやく今日にたどりついたという試行錯誤の話が聞く人を感動させるのである。そこには人間の愚かさ、弱みの告白があり、それにもかかわらず、その失敗を肥料として再起をはかる人間の強さ、貴さが、その話の中からにじみ出てくるので聞く人の胸を打つのである。

 

 体験、とくに失敗談を率直に話せば、誰でも名スピーチができるということである。力んだり、てらったりせずに、むしろ淡々と話したほうがずっと説得力がある。

 

 思わず共感の笑いを誘うようなら立派なものである。聞く人の顔をみつめてその反応で話を変えられれば、もうセミプロである。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑫話し方を上達させるノウハウ  -話し上手は、聞き上手-

 

 もう一つの重要な力「話し方」についても、書き方と同じく、自然に話したいことを話すこと、うまく話そうとしないこと、話す回数を重ねることが上達の基本である。

 

 ただ、話し方の場合、話すより大切なことは、聞くことである。昔から「話し上手は聞き上手」というように、じっくり相手の言うことを聞き、何をいいたいのかをよく知った上で、相手の聞きたいことを話すのが話し上手のコツなのである。

 

 相手の思惑について考慮しないで、一方的にしゃべりまくっても、聞いてもらえないのは当然のことである。人間は耳が二つで口が一つなのは、「しゃべる倍だけ聞きなさい」という神の教えであるとする昔からの教訓を十分に味わう必要があろう。

 

 こちらが話すのでなく、むしろ相手にこちらのいいたいことをいわせるのが話し上手なのである。これは相手のいい分をよく聞いていると、いつのまにかこちらの意図を察してか、自分の方から「こうした方がいいでしょうね」といいはじめる。それに、「それはいいことですね」と賛同すれば、こちらがいったのと同じことになるのである。日本的話し上手のコツといえる。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑪文章力上達の「三多の法」  -書き馴れノートでベテランになる-

 

 文章力上達の秘訣として、中国で古くからいわれている「三多の法」がある。

 

 三多とは「看多」「做多」「商量多」をいう。「看多」とは、良い文章をたくさん読んで、学び参考にすることである。良い文章というより、好きな文章の愛読といったほうがいいかもしれない。

 

 「做多」とはたくさん書くことである。文章はたくさん書かないと上達するはずがない。スキーやスケートが、たくさん滑らないとうまくならないのと同じことである。文章を書けないというのは、実は文章を書かない。書こうとしないのが最大の理由といっていい。

 

 「商量多」の商量とは、考えること、思案することである。文章を書いた後は、何度も読み直して、訂正することである。昔はこれを推敲といった。

 

 わからない字は仮名で書いて、あとで辞書を引いて直せばよい。

 

 書き馴れノートといって、毎日一行でも二行でも書くくせをつけ、途中でやめてよく、次の日また別のテーマで書くやり方がある。これを100日続けると、不思議に書けるようになる。継続は力なりで、日記をつけるくせは、いちばん良い文章力上達法である。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑩文章力を強化するカンどころ  -うまく書くより書きたいことを-

 

 自己啓発のアウトプットの一つ「書く」については、リーダーの中にも苦手の人が多いように思われる。

 

 人間は誰でも不自由なく話しているのだから、それをそのまま文字にすれば文章になるはずである。いま私は原稿用紙に向って話しかけるようなつもりで書きおろしている。下書きや清書は一切なし。文字通り書き流している。ただ会話だと、「…です」とあるところを、ややかしこまって「…である」と書くところだけ違っている。

 

 こういう書き方をすると、わりとスムーズに書けるものである。原稿用紙に話しかける、これが私の文章作法のコツである。

 

 この場合に心すべきことは、良い文章、かっこうのいい文章を書こうとしないことである。素直に思ったままを書きつけるつもりだと、無理なく書けるものである。日常、話をする時に、上手に、スマートに話そうと思って話していないのと同じことである。 

 

 どうも、文章を書けないという嘆きは、よそ行きの、上手な文章を書かねばならないという固定観念、先入観がいちばん邪魔をしているように思われる。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑨情報のインプットとアウトプット  -考えるはたらきの本質をつかむ-

 

 情報をインプットするのは「考える」ためであり、さらに、必要な情報をアウトプットするためである。

 

 情報のインプットとは、平たくいえば「見る」「聞く」「読む」である。これらは他人が生み出した情報を摂取することである。これは、米や肉や魚や野菜を食べたり、工場が材料や部品を購入するのと同じである。これらを料理し、加工し、消化し、組み立てて、こんどは自分の創作物、創造物としてアウトプットする。脳はまさに、考える工場であり調理場である。いかに加工し、味つけ、盛り合せをするかは料理人の腕次第である。

 

 アウトプットは、「見る」に対しては「画く」、「聞く」に対しては「話す」、「読む」に対しては「書く」となる。インプットするばかりで、アウトプットしなければ、単なる物知りに終り、社会に貢献することはできない。

 

 リーダーである以上は、積極的なアウトプットを心がけなければならない。また十分なインプットなしにはアウトプットはできず、インプットに加工することなくアウトプットすれば、テープレコーダにすぎないことになる。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑧収入の3%以上は知的再生産に投資  -本は一行か一頁で十分価値あり-

 

 リーダーともなれば、一日三食ならぬ「一日四食」で学習を習慣化するようにしたい。四食目は頭脳への栄養補給、すなわち新しい情報のインプットである。

 

 その新情報のインプットによる知的再生産のためには、一定の投資が必要となる。

 

 プロであるためには、少なくとも収入の3%以上は知的再生産のために投資する必要があろう。月収25万円なら、7500円ぐらいは、本や雑誌やテープを買う金にあてる。新聞購読料やテレビ受信料をその中に入れるか入れないかはその人次第である。

 

 単行本は、買ったら全部読むにこしたことはないが、消耗品と考えるならば、一頁でも一行でも得るところがあれば、1000円ほど出した価値があると考え、古本屋に売ったり、部下や後輩に譲っても惜しくないと考えるべきである。

 

 積ん読法といって買うだけで読まない本が山積みになってもいい。前書きと目次にだけ目を通しておけば、調べものをしようと思い立った時、不思議に必要な本が目に入ってくるものである。

 

 それからじっくり読めば、大いに必要な情報は入ってくることであろう。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑦新聞の読み方、テレビの観方  -何が報道されていないかを見ぬく-

 

 新聞やテレビの報道をそのまま信ずる人は情報に対するシロウトである。なぜならマスコミはしばしば事実は伝えても、真実は伝えてくれないからである。それは、報道が物事の半面しか伝えず、あとの半面は、取材者または編集者の主観でカットされるか、不当に小さくしか取り上げないからである。

 

 たとえば、企業倒産の記事は大きくとり上げるが、新企業が倒産企業より一ケタ多く誕生していることは記事にしない。倒産は現政権の治政の悪さを象徴しようという反権力の姿勢がそうさせるのである。だから情報のクロウトは、何が書かれているかでなく、何が書かれていないかを見ぬき、その双方を知ることによって、真実を見出す。

 

 情報のプロともなれば、さらにその上をいき、なぜマスコミがこの問題を異様なまでにクローズアップするかの政治的意図、背後にある力を見ぬくものである。

 

 日本のマスコミはとりわけ偏向度が強いことは国際的にも指摘されている。また外国の通信社は特定勢力の資本の支配下にあるので、その流す情報は大いに批判的にとらえる必要があるとされている。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑥情報感度で聞こえぬものが聞こえてくる  -すぐれたアンテナは真実を捕える-

 

 情報は情報感度というアンテナを鋭敏にすることによって、より多く望むものを得ることができる。このアンテナは指向性アンテナであり、自分が得たいと思う情報の種類を特定することによって、今まで見えなかったものが見えてくるし、聞こえなかったものが聞こえてくるものである。

 

 これはテレビやラジオと同じことで、空中に無数の電波が飛び交っているのに、ただ漫然としていたのでは何も得られない。ところが微調整ダイヤルをまわすと、急に放送がキャッチでき、音や画像がパッとあらわれてくるのに似ている。

 

 かつて有吉佐和子女史が老人性の痴呆症をテーマとした小説を思いたったとたんに、老人に関する情報がどっと入りはじめたといったことがある。新聞や雑誌の老人記事が目に入りはじめ、街を歩けば老人が目につき、本屋に入れば老人関係の本がやたらに発見でき、話にも自然に老人の話が出てくるようになったとのことである。

 

 昔の人は「心ここにあらざれば、見れども見えず、聞けども聞こえず」といったが、マトを絞ると、ちょうど反対の現象が生ずるということである。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

⑤情報化社会の本質をどうとらえるか  -情報過多時代の情報選択能力-

 

 現代は情報化社会といわれる。C&Cすなわちコンピュータとコミュニケーションの結合によって、情報は幾何級数的(指数函数的)に増えるようになり、真贋も見わけがつきにくくなり、その処理に往生するようになった。

 

 情報はしばしば冗報となり、ムダな金と時間とエネルギーが社会的に浪費されている。情報化社会は情報禍社会といってもいいくらいである。だから洪水のような情報に押し流されるようなことがなくなるためには、情報選択能力の強化がきわめて重要になる。

 

 情報の選択とは、結局、自分に必要な情報だけを抽出するということであるから、どんな情報を得たいのかという目的(マト)を絞ることが大切になる。そして、目的が定まると、不思議に必要な情報が見えてきたり、聞えてきたりするようになるから面白い。

 

 情報化社会とは、ある目的を持った勢力が意図的に情報を流したり、捏造したりする社会でもあるから、その意図を見ぬき、作られたニセ情報を選りわける能力も必要となる。

 

 情報は多くの人に知られた時は稀少価値がなくなるのは当然で、五百人以下しか知らないのが価値ある情報だという人もある。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

④先見力をどうして身につけるか  -先見は深見、先見力は宣言力-

 

 時代の流れの方向を見きわめることはリーダーの自己啓発に不可欠な項目だが、その先見力を身につけるにはどうしたらよいだろうか。先見力強化法の主なものをあげてみよう。

 

 ・時代は需要であり、需要は人間の心だから、先見力とは人間の心の深見力ということになる。人間として手近につかめるのは自分だから、自分のやりたいこと、ほしいものを深く自省すると未来の需要が見えてくるはずである

 

 ・先見力は、未来を占う面もあるが、未来にこういうものを実現したいという意志力でもある。つまり語呂合せのようだが先見力が濁ると宣言力になる。こうしたい、こうしてみせようというみんなの決意、その宣言が現実のものになると考えるのである

 

 ・先見力は後見力でもある。これは歴史はくりかえすという考え方である。二度あることは三度あると考える。そのためには歴史を深く研究すると時代の方向が予測できると考えるのである(外挿法ともいう)

 

 ・遅れている国や社会は進んでいる国にあこがれる。遅れている場合は先進国を学ぶとやがてそれに近い社会が明日の姿と考えることができる(時差比較法ともいう)

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

③学ぶべき第一の急所は時代の流れ  -需要の変化を先取りするのがプロ-

 

 自己啓発の第一の急所は何といっても、前に述べた時代の流れと「需要の変化」を正しくつかむことである。この世に人間が存在するかぎり、人間的需要がなくなることはない。なくなりはしないが、どんどん変化する。それも加速度的に変化するから激変という。

 

 この激変に対して「変化には変化」で対応するのがマネジメントであり、それができる人をリーダーという。リーダーは時代の流れの本質をつかみ、先手をとることができる人である。マネジメントとは「状況の先取り」の別名である。

 

 したがって、時代の流れの行く先を見きわめることのできない人は、激変の時代のリーダーにふさわしくないことになる。

 

 この時代感覚をとぎすますためにこそ自己啓発は不可欠なのである。新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどのジャーナリズムを利用するのは現状把握と先見力を磨くためである。

 

 ただし、知るだけで、それを活用し、実践に移せないようでは自己啓発は完結したことにならない。実行と結びついてこそ、自己啓発に時間とエネルギーと金を投入した甲斐があるというものである。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

②人材とはたゆまず自己啓発する人  -日日維新の熱烈な向上心-

 

 人材とは、人手や人足に対比されることばで、人材の材は材料とか材木という意味ではなく才が濁ってザイとなり、材の字をあてはめたものである。才は才能であり才覚をあらわし、手足ではなく、頭を使い、考え、創造する人のことである。

 

 常に新しいことを考え、創造するには、不断に思考革新、すなわち脱皮を続ける必要がある。すなわち、人材とは絶えず自己啓発を続けている人のことである。

 

 一つの目標を達成したら、より高い次の目標をかかげて、それをめざして努力を続ける。決して現状に満足しない。毎日のように入浴して垢を落す風呂好きな人のように、いつも心の垢を落し、新鮮であろうと努力する人は常に精神的に若々しい。

 

 日日維新ということばがある。「日々、これ新たなり」と読む。刷新、脱皮、成長をつとめてやまない姿である。こういう人こそ人材である。

 

 いま科学技術の世界では、日進月歩ならぬ秒進分歩といっている。このスピーディな変化に遅れぬためには、日日維新の自己啓発が不可欠なのである。もっとも他方に宗教のような不変不滅のものもあることを知った上での自己変革、日々の精進なのである。

 


第九章 リーダーの自己啓発・相互啓発 

 

①自己啓発の本質は「脱皮」である  -人間的にひとまわり大きく成長へ-

 

 リーダーにとって自己啓発は不可欠ないとなみであるが、自己啓発のほんとうの意味がわかっていないとマト外れになるおそれがある。

 

 自己啓発を学校式の勉強の延長と取り違えている人があれば、その考えは正しくない。

 

 自己啓発はセルフ・デベロップメントを直訳したことばだが、昔は「修養」といったものである。単なる知識吸収的な勉強ではなく、修身斉家治国平天下に至る基礎的な人間的修業の意味をもつ儒教的なことばである。

 

 実はセルフ・デベロップメントにも同じ意味がある。デベロップは切り開くことで、自分のカラを破り、ひとまわり人間的に大きく成長することなのである。日本語での適切な表現では「脱皮成長」ということになろうか。人間は昆虫や爬虫類のような脱皮はしないが、頭の固いカラ、すなわち固定観念を破り、より大きく、自由に発想すること、すなわち精神的に脱皮をするのである。むやみに本を読んだり、セミナーに出たり、旅行をして見聞をひろめても、それを鵜呑みにするだけで、自分のものとして活かすことがなく、脱皮に役立たなければ、ほんとうの自己啓発とはいいがたいのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉛私生活の安心が安全のベース  -家庭に心配事のある時は要注意-

 

 職場の安全と私生活の安心とは密接に結びついている。

 

 ベテランの作業者でも、子煩悩のため、子供が病気になると、心配で心配で仕事が手につかず、心がうつろになって注意力が低下し、思わぬ大ケガをすることがある。

 

 鳶職の親方は部下の顔色を見て、睡眠不足で肉体的にも精神的にも不安定と判断すれば、高所作業をやめさせ、地上の仕事をさせる。このような細心の配慮があるから、命綱もつけない高所作業をしているのに、鳶職には意外と災害が少ないという。

 

 このようにリーダーはメンバーの家庭の事情まで知りぬくことにより、万全の安全管理ができるのである。

 

 仲間の中に、家庭のトラブルがある時は、ふだんの何倍かの注意力で仲間をカバーし、災害をチームワークで未然に防ぐように、リーダーは教え、配慮すべきである。

 

 一家の長がケガをしたり、急死したりしたら、家庭はたちまち悲劇となる。だから、妻君を職場見学に招き、パーティでもてなし、家族ぐるみの安全教育、安全システムの確立をすすめたい。家庭の平和こそ、職場安全・ゼロ災の土台なのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉚社内ギネスブックを作る面白い会社  -信頼の壁を作って永遠の思い出に-

 

 愉快な会社では、世界一ばかりを集めて有名なイギリスのビール会社の「ギネスブック」にあやかって、社内ギネスブックを作っている。

 

 これは社内№1をのせるもので、誰でも一つは社内№1になるものを持とうという楽しいキャンペーンである。カレーライス早喰い№1でもよいし、握力№1でも、遠距離通勤№1でもいい。新入社員には明日から№1になれ、それにはいちばん早く出てくることだと教えるリーダーもいる。

 

 女性の場合は美人№1を決めたりするとトラブルのもとになるので、ニッコリ№1とか、親切№1を選ぶ。もちろん、売上№1、専門技術№1は大歓迎である。

 

 このように、ユーモアたっぷりの社内キャンペーンは、職場のモラールを向上させ、ひいてはチームワークを強化し、業績にも大きく反映する。

 

 21世紀はすぐれて人間の世紀をめざす時代となると考えられるので、このようなヒューマニズムあふれたマネジメントやキャンペーンをリーダーは大いに心がけるようにしたいものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉙ビルの最上階にサロンを作る優良企業  -職場の中に居酒屋を作る-

 

 生産性や効率をほんとうの意味で高めるためのキメ手は、職場をより人間的な場所にすることにあると、次第にわかってきたのが最近の傾向である。

 

 そこで職場の中に植物や鳥籠をもちこんだり、きれいな音楽を流したり、休憩室をぐっとデラックスにしたり、トイレに金をかけたりするようになった。工場の中の詰所をホットコーナーと名づけ、あらゆる人間的な試みをして見違えるようにした会社もある。ホットは「熱い」という英語ではなく、「ほっとする」という意味である。

 

 また、会社の中に茶室やいろりのある和室を作ったり、社技をゴルフと定め、社内にゴルフ練習場を作った会社さえある。一般に良い会社ほど、ビルの最上階の見晴らしのいちばん良いフロアにサロンを作って社員のいこいの場としているという見方もある。社長・会長の〝奥の院”にして、一般社員は近づけない権威主義の会社とは大きな違いである。

 

 H社では新築のビルの中ほどに役員フロアを設けた。上からも下からも、いちばん近づきやすくするという配慮からである。

 

 やはりトップリーダーの理念・思想の違いのあらわれである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉘公認ライセンスを交替で取りにいく  -プロとしての多能化の推進-

 

 これからは、技術革新、社会改革が日進月歩ならぬ秒進分歩の勢いで進んでいるだけに一つの専門しか持っていないと、すぐに役立たなくなる。 

 

 そこで日常不断に一人三役四役できるように複数の専門をもち、多能化することが必要になってきている。しかし、その多能化も個人でやるとなるとたいへんだから、経営として組織的に取り組もうとした会社がある。 

 

 S社では仕事のやりくりをし、ムダをなくし、浮いた人員分を交替で社外の学校に通い、ライセンスを取ったら、次の者が代って学校に行くというのである。

 

 経理マンが簿記の勉強をしたり、事務職が公害防止のライセンスを取るというように、担当の仕事と直接、間接にクロスオーバーするような資格を取るようにしたのである。

 

 これにより、一人が三つも四つも専門資格をもつようになり、プロとして応援協力できるようになったために、きわめて強力なチームとなった。その経果、従来70人でやっていた仕事を、四年間で2、3人でできるようになったというのだから驚異である。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉗一・一・二運動でモラールアップ  -いくら話しても話し足りない-

 

 組織の活性化は、コミュニケーションの活性化であるから、話し合いの強化こそが、組織を生き生きさせることになる。

 

 そこで労使間の対立でギクシャクしていたM社では、全社的にコミュニケーション強化のための一・一・二運動を展開することにした。一・一・二とは、上司と部下が一対一で年二回、一回30分すなわち一人について年に一時間面接するというキャンペーンである。

 

 部下が30人いても、年間365日のうち、たったの30時間だから、かんたんに実行できそうなものだが、いざ実行するとなると、よほど計画的に意志強くやらないと話し合えないことがよくわかった。これは逆にいえば、日常いかに話し合っていないかの証拠でもあり、大いに反省したのである。そして、話し合ってみると、30分や一時間ではとても話し足りないほど、話したいことがあるのにびっくりしたという。 

 

 ふだん会議やミーティング、あるいは遊びでよく話し合っている間柄でさえそうなのだから、日常ろくに話し合っていない者同士ではこれこそ山のように話があり、話せば話すほど、いかに話し足りないのかを知って、お互いにとても驚いたのであった。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉖二・六・二の集団力学をマスターする  -手ごわい反対リーダーを味方に-

 

 グループとしての職場を指導するにあたって、リーダーは二・六・二の法則といわれる集団力学(グループ・ダイナミックス)の考え方を知って活用すると効果がある。

 

 二・六・二の法則というのは、グループは自然のままに放置するとリーダー派が二、反対派が二、中間派六で落ち着いてしまい、動かなくなるという考え方である。だからリーダーがその集団を動かそうとすれば、リーダー派の二を強化し増大していくことだが、その際、中間派の六の中から協力者を探すよりも、反対派二の中から探したほうが有効とされている。というのは、反対派はそれなりに力があり、リーダーにないすぐれたものを持っているからである。いわばマイナスのリーダーシップがあるのである。

 

 そこで「敵にすると手ごわい者ほど、味方にするとたのもしい」という経験則を活かし、マイナスリーダーを説得し、サブリーダーにして味方につけ、その主張や要望をとり入れるようにする。すると、二・六・二のバランスが、三・六・一というように変り、三のリーダー派が強くなると、六の中間派は当然こちらにつき、反対派の一もしぶしぶながらついてくるようになるというわけである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉕多忙なリーダーの面接時間作り  -早朝、朝食をとりながら-

 

 

 OJTにおける個別指導強化のためには、手に手をとって教えるコーチとともに話し合う機会が必要だが、お互いに忙しくてなかなか個別に面接できないものである。

 

 とりわけトップリーダーの社長ともなると、社員が4、50人の小企業であっても、なかなか一人一人とじっくり話すチャンスはとれないのが普通である。いくら個別的な話し合いが人材育成に有効であるとわかっていても、優先的に計画に織りこまない限り実行できるものではない。また、優先順位で五番以内に入っていないものは、いくら口先で重要だといっても実行できないから、結局は重視していないことになる。

 

 そこでH社では多忙な社長が全社員と一対一で話し合うために、毎朝就業一時間前に出社してもらい、二人でパンとコーヒーとゆで卵の朝食をとりながら、じっくり話し合ったのである。

 

 社長は「一時間前に出社してもらうのは悪いが、君は一回ですむが、私は50回早出するので了承してくれたまえ」と冒頭に話をして本題に入ったのである。社長はもっぱら聞き手にまわり、本人のやりたいこと、伸ばしたいことを知り、援助を約束したのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉔個別指導メモの大切なポイント  -長所を伸ばし、自信をつける-

 

 

 教育的チェックリストは、もちろん個別的な指導表になっており、個別指導はどこを重視すべきかが明記されている。

 

 教育を一言であらわせば「自信をつけさせる」ことであり、その前提は、人間の潜在能力(とりわけ脳力)は無限大であることを「自覚させる」ことである。そして、人間はその長所を伸ばすことによって社会に貢献できることを自覚させ、長所をどう伸ばすかについて、リーダーは本人と計画を作り、これをチェックしつつ推進していくのが指導である。

 

 もちろん短所・欠点も知ることは大切だが、短所にとらわれ、これを改めようとムリに努力するより、長所をどんどん伸ばしていくと、自然に短所も薄くなっていくものである。

 

 長所を伸ばすにあたって有効なのは、職場内、あるいは競合する職場間で、よきライバルを設定し、これと競争させることである。

 

 人間関係を悪くしない範囲で、よき競争関係を作ることが、人間を最もよく成長させる方法であることを知り、実践しているリーダーはすぐれた教育者といえよう。

 

 そして不断に励まし、アドバイスし、力づけていくとますます成長していくものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉓正しい考課のための日常チェック  -エンマ帳を捨て、エビス帳で-

 

 

 教育的人事考課となると考課や査定のあり方は当然変ってくる。

 

 これをある会社では「エンマ帳を捨て、エビス帳を持て」と管理・監督者に教育している。「ブラック・リストを捨て、ホワイト・リストを持て」といいかえてもいい。

 

 エンマ帳とは、欠点、ミス、失敗、非行等をもっぱら記入する減点用のチェックリストで、ブラック・リストともいう。これに対してエビス帳(ホワイト・リスト)は、長所、美点、可能性、善行をもっぱら記入し、これをできるだけ引き出し、伸ばし、育てようとする教育用の手帳である。こういう教育用のチェックリストは、計画的、系統的に日常たゆみなくチェックするところに意義がある。

 

 査定時にあわてて思い出してつけようとすると、どうしても主観的になり、見落しが多くなる。地味なコツコツ型の人物より、派手で、上司のよろこびそうなパフォーマンスをする人間に良い点をつけやすくなる。日常不断にたんねんに継続評価してみると、目立たない活動をしている人物の貢献度がきわめて高いことがわかり、将来のリーダーに向いていることが判明したりするものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉒考課評定の日本的な特徴を知る  -教育的人事考課の心がまえ-

 

 

 人は誰でも一生けんめい働いたことを、上司や仲間から正当に評価してもらいたいと思っている。そのために考課評定が存在するのだが、その評定がそのまま金銭的な算定に正比例しないところが、きわめて日本的なのである。

 

 たとえば、売上げを二倍達成した営業マンの昇給やボーナスが仲間の二倍になることはまずありえないし、二割の差もないことすら珍しくない。つまり、日本では、よく働きよく稼ぐ者に対して極端な優遇をするのでなく、差をつけるより平等の方を重視するという傾向が強いのである。もっともこの傾向は日本の賃金がアメリカを越すようになり、実力実績による差を強調する方向に次第に変ってきてはいるが……。

 

 労組の平等化志向の強い経営では、依然として大きな差をつけることに反対しているため、日本の経営における人事考課は、金銭的に差をつけるためというより、能力の差の原因をつかみ、教育によって高い方へ平均化するための「教育的人事考課」というのが本質といってよいだろう。リーダーはこのことをよく理解し、教育的見地からの考課評定を行ない、レベルアップ教育の資料にするよう心がけることである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

㉑順次指導のチェーン作り  -教えることにより学ぶシステム-

 

 

 人はものを教える時にいちばん学ぶものである。一時間教えようと思ったら50時間から100時間仕込みに時間をかけないと、自信をもって教えることはできないものである。

 

 こういう考え方から、リーダーが教えるのはもちろんであるが、すべてのメンバーが、各々誰かに教える仕組みを「順次指導システム」と呼んでいる。先輩は後輩に、新人もパートやアルバイトに教える役割をあたえるのである。

 

 すると、教えるためには、いろいろと勉強しなくてはならないから、大きく成長する。すなわち、みんなが助けあい、教えあって成長しようとするシステムなのである。

 

 もっとも、年輩者が若い後輩に教えるばかりが教育指導ではない。年輩の知恵と経営を若い人が教わり、反対に年輩者が若い人から新しい知識とセンス、アイデアを学ぶという相互啓発も大切である。

 

 教え、教えられてともに成長するから「共育」「協育」あるいは「交育」ともいう。教わってうれしく、教えて楽しくなるから、「楽育」といってもいいかもしれない。「興育」ということにもなろうか。順次指導システムは全員レベルアップシステムである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑳適切な目標のあたえ方のコツ  -小さな勝利の積み重ねが根性作り-

 

 

 仕事に限らず、人生においても、目標をしっかり持つことはとても大切なことである。目標を達成したよろこびが生きがいなのだから、目標なしでは生きがいは得られない。

 

 しかし、その目標は高すぎると達成できず、生きがいは得られないし、低すぎると、達成したというよろこびもわずかなものとなる。目標のあたえ方については、感覚的ないい方だが、次のようにいうことができよう。天井を目標、床を出発点、頭の高さを現状と考えての話である。

 ・立って手を肩の上に伸ばし、天井に届くようだと、その目標は低すぎる

 ・力いっぱい飛び上がっても、手が届かないようでは、その目標は高すぎる

 ・爪先で立って背伸びして、背伸びした手が触れるか触れないくらいがちょうど良い

 

 具体的には現在の30%増しぐらいが適当といえようか。もっともどんな高い目標も、ハシゴをかけたり、階段をつけて、一段ずつ昇っていけば必ず目標に到達できる。

 

 その一段上るという小さな勝利の積み重ねが自信となり、根性作りになるのである。小目標、中目標と次々に征服し、大目標に至るよろこびはすばらしいものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑲三年日記・五年日記で心をつかむ  -本人よりよく知っている上司-

 

 

 リーダーの中には、三年日記や五年日記をつけている人がいる。これはまさに職場の歴史であり、まことに貴重なものである。

 

 この日記には会社と職場の出来事、会社の動きなどを記入するのはもちろんだが、社員とその家族についても細大洩らさず書きこまれている。新人や中途入社の社員の入った日、結婚した日、子供の生まれた日、学校に入った日などがていねいに記録されている。

 

 すぐれたリーダーはこれを過去にさかのぼって見ることにより、「ああD君は去年の今日入社したんだなあ」と思い出し、朝礼の時に「D君、入社一年目の記念日だから、何か一言あいさつをしてくれたまえ」ということができる。

 

 M君は明日が長女の誕生日、K君は三日後にお父さんの命日ということがすぐわかり、ひとことよろこびや、なぐさめの声をかけるのである。

 

 時には本人の方がうっかり忘れてしまい、上司に教わることもよくある。

 

 こうして部下の成長や生活を見守り、育てることに力を注いでくれるリーダーに対して、うれしく思い、支持協力につとめるようになるのは当然であろう。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑱家族へ社長のラブレターを送る  -家族ぐるみの経営参加システム-

 

 

 給料が銀行に振り込まれるようになり、給料袋には明細書一枚というさびしい姿となり、亭主の権威は大いに低下することになったという嘆きが聞かれる。

 

 せめてボーナスぐらいは現金でもらい、女房にこの日一日ぐらいは、うやうやしく受け取らせてみたいというビジネスマンは多い。昔は社長が一人一人にボーナスを渡し、社長の手と触れあって、うれしい悲鳴をあげたという話もあったのだが……。

 

 そこで、給料袋に社長からの社員の奥さんや両親にあてた手紙をお金の代りに入れている会社がある。通称「社長からのラブレター」といわれる。この中で社長は夫人たちの内助の功に心から感謝し、すばらしい社員を育てて下さった御両親に心から御礼を申し述べ、会社の現況を報告し、社長の信念を語り、輝やかしい未来を約束するのである。

 

 社員は多いから、もちろん印刷物になるが、この手紙により家族と会社を結びつけ、家族ぐるみの経営参加・参画のシステムとしているのである。会社と個人(社員)と家族の三つのKのしあわせ十年計画を全社員が作っている会社もある。会社のため、社員や家族まで犠牲になる時代は終ったのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑰メンバーの家族への情報連絡  -親心を知りぬいた心憎い工夫-

 

 

 最愛の子女を社会に送り出した父母の心配は大変なものである。特に遠方の会社に勤めるわが子への思いには切なるものがある。

 

 昔は子沢山のゆえに、「一度家を出たら、親の死に目以外は帰ってくるな」ときびしく送り出したものだが、今は一人っ子が多く、「いやになったらすぐ帰っておいで」となるから、子供の甘えは取れないので困る。

 

 そこで心配している親に対して「こんなにお子さんはたくましく成長していますよ」とリーダーが親元に年に数回ハガキを出している感心な会社がある。ハガキは上中下の三段にわかれ、上段には会社や工場の現状を印刷してある。中段はリーダーが親に対して子女の成長ぶりを手で書きこむ。そして、下段はその子女本人に一行でも書かせて送るのである。今の若い人はめったに手紙など書かないから、このような近況報告のハガキはとてもよろこばれる。

 

 中には学校の先生あてに出している場合もある。このような心づくしの情報サービスが信頼を生み、求人にも大いに役立っているとのことであった。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑯名前をおぼえることの偉大な力  -存在価値を認められてやる気-

 

 

 声をかけられることと同じように、名前をおぼえて呼んでくれるということに、人間はよろこびを感ずる。名前の呼び方で、人間関係がどのくらい密なのかもわかる。

 

 たとえば、山田三郎という人がいたとする。これをリーダーが、山田さん、山田君、山田、山ちゃん、三郎君、サブちゃん、サブとだんだん変化し、さらにアダ名で呼びあうようになったら、とても親しくなったことになる。

 

 N社の部長クラスのリーダーは三百人の部員(部下)の名前と顔を一致させるのに二年かかったという。工場内なら胸の名札を見ればわかるが、社外に出て繁華街などでバッタリ会った時に「やあ、島村さん、今日はとびきりきれいだね」というのは容易でない。

 

 職場のユニフォームではパッとしない男女でも、私生活では見違えるようなすてきなファッションで身を包んでいるからわからなくなる。それをパッと間違えずに声をかけられるのだから大評判になった。

 

 みんな自分たちはよく見られているのだといわず語らずのうちに頑張ったので、三年目にはこの部はすばらしい業績をあげることができたのであった。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑮まんべんなく声をかけることの重要性  -部下は上司との接触をカウントする-

 

 

 部下は上司が声をかけてくれることをよろこび、望んでいるものである。「おはよう」もいいが「木村さん、おはよう」といってくれるほうが、もっとうれしい。「子供さんは大きくなったろうね」と家族にまで関心を寄せてくれるリーダーには、とても親しみを持つものである。一方、リーダーとしては、まんべんなく声をかけているつもりでも、部下はひそかにカウントしていて、あの人には五回、私には今週三回しか声をかけてくれない。不公平だわなどと心で思ったり、話し合ったりしているものである。

 

 そこで、あるリーダーは、毎日夕方に今日は誰と誰に声をかけたかをチェックし、二十日で中間集計してみると、公平に声をかけているつもりなのに、かなりのバラツキがあることがわかってビックリした。

 

 これはいかんと二十一日から三十一日までは、つとめてかけ方の少なかった人に声をかけるようにした。三十一日にもう一度統計をとってみると、ひとまず合格となった。そうすると職場は目に見えて明るくなり、モラールも生産性も向上した。

 

 声をかけるのは存在価値を認めることだから当然やる気を出すようになるのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑭リーダーの小さな約束の大切さ  -約束はメモをして忘れない-

 

 

 リーダーは部下との話し合いの中で、時々「何々してやろう」とか「いっぱい飲もうじゃないか」と軽い気持でいうことがある。いう方はすぐ忘れても、いわれた方はなかなか忘れない。とくに大きく期待しているわけではないが「いつ飲みに行くのかな」と心待ちにしている。ところが二ケ月たっても音沙汰がないと、なんだ忘れてしまったのか、口先だけの空約束だったのかと失望し、軽い不信感を生む。

 

 こういうことが度重なるうちに、大きな不信に育っていってしまうのである。

 

 反対に、小さな約束でも忘れないで、きちんと実行すると、あのリーダーは違う、誠意のある人だ、良い人だと評価が高くなっていくものである。

 

 だから、リーダーは小さな約束でも、いったら忘れないようにメモをするくせをつけるといい。「約束手帖」といったものを特別に作ればいちばんいいが、普通の社員手帖に赤字で記入し、必ず実行することを心がける。

 

 そうすると、自分でも気持がいいし、部下には感謝され、まさに一石二鳥である。口先だけの空約束はしなくなるから、信頼度は大きく高まるはずである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑬階段の踊り場利用の意見伝言板  -何でも自由に書ける高次元経営-

 

 

 アイデアのよく出る、チームワークのいいM社では、工場から二階に上る階段の踊り場にロール式の伝言版が置いてある。これに誰が何を書いてもよいことになっている。ロール式になっているから、前に書かれたことを読み返すこともできる。

 

 ある青年が会社のあり方について批判的な意見を述べると、そのあとに社長が意見を書く。さらに他の社員がその次に賛否の意見を書きこむといった具合で、自由な意見交換が行なわれているのは、その会社の高い民主化のレベルを如実に示すものである。

 

 H社では、全社員に「私の記録」というタイトルのノートを配っている。各人はこのノートに何を書いてもいい。いたずら書きやポンチ絵でもいい。監督者は週一回このノートを見せてもらい、話し合うことになっている。イライラして「バカヤロウ」などと書いてあると、何でイライラしているのかを静かに語り合い、指導のキッカケをつかむのである。

 

 この「私の記録」は入社以来のものが、きちんと揃えてあり、これを読みかえしてみると、自分の成長のあとがよくわかるという。悩みは口に出したり、書いたりすると、不思議に半減するものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑫職場でのツールボックス・ミーティング  -黒板を机にして、手で考える-

 

 

 会議は会議室でやるものと思うのは固定観念である。短時間なら職場でサッと集まって話し合うに限る。休憩所でやってもよく、道具箱に腰かけてやってもいい。これをツールボックス・ミーティングという。

 

 会社によっては、改善の話し合いは、工場機械の脇にムシロやゴザをひき、車座になって行なっているという。道具・工具を手にしたり、機械を動かしたり、油の匂いの中での話し合いが、よいアイデアを生むというわけだ。また、黒板や白板を平にして脚をつけ、それをかこんで、白墨やマーカーを手にし、図や式を書きながら話し合うのもとてもいい。手は〝第二の脳〟といわれるだけに、手を動かしながら考えると、ホンモノの脳が良い刺激を受けるので、すぐれたアイデアが出るのである。

 

 アメリカのシンクタンク会社ではミーティングの時に、みんなに白い紙とサインペンを渡し、自由にいたずら書きをさせながらミーティングをする。あとでその紙を回収してチェックすると、無意識に書いた字や図形の中から、すばらしいアイデアのヒントがつかめることがよくあるという。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑪報告書のどこをよく見ればよいか  -変化と異常の兆候をつかむ-

 

 

 報告書でよく見るべきポイントは「変化」である。ユーザー(市場)とライバルの変化を敏感にとらえるために、とくに変化している点をくわしく報告するように教育することが大切である。世の中は不断に変化し、昨今は激変しているのだから、ユーザーもライバルも変化しないはずがない。それがキャッチできず「異常なし」としか報告できないようでは、マーケティングマンとしてのセールスマンは失格といわねばならない。

 

 それと、変化するものでなく、変化していないものにも注目する必要がある。たとえばユーザーの倉庫に入って、何が動いているかだけでなく、何が動いていないのかもしっかり見届けて報告することをセールスマンに求めているような会社はしっかりしている。なぜ動かないのかの理由がわかれば、開発のヒントがつかめるからである。

 

 さらに、同じ人物のレポートをずっと見比べてみると、時に異常が見つかることがある。いつもと違う書き方をしているのには何か理由があるはずである。

 

 これを掘り下げてみると何かの予兆をキャッチできることもある。いずれにしてもよく読まないとわからないことだが……。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑩報告書をうまく書かせるコツ  -書かせるより、話させるがトク-

 

 

 報告書をうまく書かせるコツは、報告書をよく読み、アンダーラインを引いたり、コメントをつけて本人に返すことである。ただ判を押して返すだけでは読まれたかどうかわからないので、熱心に書く気がしなくなるものである。返す時にコピーをとっておく。

 

 いまの若い人たちは、字や文を書くのが苦手で、レポートを書くのをたいへん苦痛に感じている。そこで、つい面倒になり、かんたんに「異常なし」「特記すべきことなし」ですませようとする。これでは報告書の意味がなくなってしまう。

 

 報告書はセールスマンなどの行動のチェックという意味もあるが、中心はユーザーや市場の情報をできるだけ早く、的確にキャッチするのが主眼である。したがって、書かせるよりも、口で言わせたほうが情報量は何十倍にもなるし、質問をすれば、もっと深くつかむことができる。中にはテープに吹込まれたものを、ベテランの女性スタッフにワープロでまとめさせて報告書にしているところもある。

 

 報告書を書いて出せば、プラス点をつけるといった策をとったりと、書いたり、話したりする報告書と同じかそれ以上の努力をリーダーがすれば、報告内容は必ず向上する。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑨災害を未然に防ぐパトロール  -ゼネラル・パトロールの必要性-

 

 

 監督者としてのリーダーは、見てまわることが仕事だから、常時パトロールが毎日の主要な任務となる。とりわけ、人命尊重のため、災害を未然に防ぐ安全パトロールには力を入れる必要がある。いわゆるヒヤリ、ハッとするようなことはすべて危険の前兆だから、先手を打って原因をとり除くことに最優先でとりかかることである。

 

 さらに兆候はなくても、よく見ることにより危険予知ができるようになる。危険予知訓練(KYT)もリーダーの大切な任務である。安全第一とは人間第一のことであり、人間の安全については、どれほど注意しても、注意しすぎることはないのである。

 

 それと、日本の会社・工場では、ゼネラル・パトロールという総合的に見てまわる役目が意外と確立されていない。パトロールをしても、それぞれ専門の眼で見て歩いているので、全体を大きく、洩れなく、あらゆる角度からパトロールしている人は少ない。

 

 顧問格のベテランにゼネラル・パトロールをしてもらって成果をあげている会社もたまにあるが、現役のリーダーが、意識してゼネラル・パトロールすれば、改善すべき点は続々と発見できるものである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑧仕事のチェックのポイント  -プロ経営ではチェックのチェック-

 

 

 管理監督の仕事の急所はチェックにある。チェックが甘いと仕事全体にガタがくる。プロほどチェックにきびしいものである。

 

 プロ経営では、ダブル・チェックを励行している。いわゆるオーソドックスなPDCAだけでなく、そのサイクルのまわりに、もうひとまわり、チェックのサークルを重ねるのである。つまり、プランのチェック、チェックのチェック、アクションのチェックをするのである。

 

 計画を立てたと安心せず、その計画はほんとうに適切か、具体的か、洩れはないかと念には念をいれてチェックをし、それからドゥ(実行)に入る。そして実行、実施、遂行が終ったら、計画通りだったかをチェックするのだが、そのチェックの仕方が、ほんとうに適切だったか、見落しはなかったかを再度チェックするのである。さらに修正行動としてのアクションについても、同じようにダメ押しをし、正確を期するのである。

 

 ベテランも油断すると初歩的なミスを犯す。それはチェックしたつもりで、実はチェックしていなかったり、チェックに甘さやカン違いがあるのを気付かず失敗するのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑦監督・指導のコツ  -「監督」の意義の正しい把握-

 

 

 監督者としてのリーダーは、その指導のコツを十分心得た人であってほしい。

 

 まず、監督ということばの意義・意味を正しく知ってもらう必要がある。「監」も「督」もともに「見る」という意味である。監督者とは見る人、見ながら指導する役である。

 

 何を見るのかといえば、全体と部分、そして現在と将来である(過去も見るが、それは反省の場合である)。全体とは、仕事の流れ(協業)が順調かを大局的に見守る。停滞、逆流、洩れ等の兆候を見つけたら直ちに手を打つ。部分とは分業をしている個々の部下の働きぶりを見て、個別指導することである。

 

 現在の仕事がうまくいっていれば、ゆとりを作って、将来の計画と改善を工夫する。ところが実際には、監督者でありながら、見ていない人がずいぶんいる。サボッているわけでなく、見られないのである。その理由は、人不足でみずから作業者になり、全体を見られず、将来を見るゆとりもない。さらに会議や雑用で職場を離れるからである。だから、日常不断に、直接的、個別的、しかも総合的に見ることができるようにしなければ、監督の仕事をしっかり果せないと覚悟しなければならないのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑥仕事の割当て方、伝達の急所  -メモ・復唱による確認-

 

 

 仕事を割当てるのはリーダーの大切な仕事だが、わかりきっているようであたりまえのこのことが、意外にほんとうはわかっていない場合がよくあるものである。

 

「あれをやっといてくれ」といっただけで話が通じたのは以心伝心の昔のこと。今では細かく、ていねいに説明しないとわからないし、やってもらえない。情けない時代になったと嘆いても始まらないのである。

 

 まず、前にも述べたように、五W一H(または二H)でやってもらいたいことを、はっきりと伝える。何を、いつまでに、誰と、どこで、どういう目的で(理由で)、どうやってやるのかをハッキリいう(どのくらい経費をかけるかを入れると二Hになる)。

 

 それも、数字で表わせるものは、なるべく数字を使う。「大至急」でなく、「午後三時まで大至急やってほしい」という。するとあいまいさがぐんと減る。

 

 指示を受けた者には、いわれたことを復唱させて、理解度を確かめる。大切な人名、品名、数量はメモをさせる。こうして念には念を入れて、正しく伝わったかどうかをチェックすることが大切である。そうすれば伝達のミスは大幅に減るはずである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

⑤朝礼スピーチの準備と全員の交替発言  -小道具の活用とバズ・セッション-

 

 

 朝礼は短時間だから、話は要領よく、的確にしなければならない。話は短いほどむずかしいものである。そのためには、何をどう話すかをメモにして要点を見ながら話すといい。

 

 話し下手の人は紙に大書したものを掲げながら説明するのもよく、写真、見本、掛図、模型などを手にしながら話すと、周囲も注目しながら聞くから効果が高くなる。話だけだと下を向いて聞く者もいるから、このような小道具を工夫するといい。

 

  また、朝礼では職制のリーダーが喋るだけでなく、メンバー全員が毎日一人ずつ、交替で一分から三分のスピーチをする習慣をつけるといい。人前で話をすることほど自信づけ教育として効果のあるものはない。

 

 三分というと二百字詰原稿用紙五枚分、千字はあるから、かなりのことが話せるものである。仕事について、会社についてでもいいし、身辺些事の感想でもいい。何回も話すことにより力がつき、自信がわく格好のOJTになる。

 

 また何かを申し合せる時は、先に述べた六・六式のバズ・セッション(がやがや討議)で一人一分ずつ話すと、全員発言となりコミュニケーションはとても良くなるものだ。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

④朝礼のフォローアップが肝心  -その日休んだ者への伝達-

 

 

 朝礼もメネジメントの一環である以上PDCA(見返り参照)の励行が必要である。伝達したこと、注意をしたことが実行されているかをきちんとチェックし、フォローしなければならない。

 

 いいっぱなし、聞きっぱなしではいけないから、朝礼日誌やメモをつけ、フォローを怠らないことである。特に、その日に休暇・出張・病気等で欠席しているメンバーには、後日出社してきた時に、何日にはどんなことを伝達したのかを、個別に伝えることが大切である。できればメモをして渡すぐらいのフォローをしておくといい。

 

 そうでないと、うっかり朝礼に欠席していたことを忘れ、「昨日、あれだけ注意したのに、なぜ守れないのか」と叱ったりする。キョトンとした相手に「何でしょうか」と聞かれて、はじめて「君は、昨日は休んでいたのか」とあやまるようではリーダー失格である。

 

 朝礼日誌には、何日には誰と誰が休んであり、いつフォローの伝達をしたのかを、きちんと記入するようでありたい。また、朝礼に限らず、マネジメントの急所はフォローとチェックのきびしさにあり、これがルーズではプロといえないのである。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

③ユニークな朝礼のいろいろ  -社長の理念の徹底の工夫-

 

 

 ユニークな朝礼としては、国際化にともない全部を英語でやったり、六・六式といって六人でグループを作り、一人一分発言で六分間のショート・ミーティングをするところもある。中小企業では、社長の考え・理念を徹底するために社長名言集をつくり、朝礼当番がその中から実行すべきことばを選び、その月のスローガンにしているところがある。

 

 この社長名言集は、社長が聞いたり、読んだりしたことばの中から感心したものや、自分の考えを簡潔なことばにしたものを、毎週B5判のコピーにして配り、これを綴じて表紙をつけたものである。これを交替でやることにより、社長の考え方が、じわじわと浸透し、みんなが限りなく社長に近い考え方ができるようになるというわけである。当番になった者は、この社長名言集をくりかえし読み、いちばんぴったりしたことばを選ぶのだから、とてもよい教育になる。

 

 この会社を訪問した時、その月の朝礼当番が選んだことばは「微の集積」であった。これは「チリも積もれば山となる」という諺を現代化したもので、微差は大差、微欠陥の撲滅等の〝微の時代〟にふさわしいものであった。

 


第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

②朝礼のすすめ方のカンどころ  -並び方、話のすすめ方の急所-

 

 朝礼に際しては各社それぞれ独自のやり方をしているが、一般には次のようなすすめ方をしている所が多い。並び方は、タテ、ヨコ、円型、コの字型等があるが、コの字型がいちばんきちんとしている。時間が短いから話し方は簡潔にする。

 ①「おはようございます」の声を合わせたあいさつでスタートする

 ②社是・社訓・今月の合言葉、社歌の斉唱

 ③点呼、出欠の確認

 ④伝達事項、注意事項を述べる

 ⑤安全などのショート・ショート教育

 ⑥三分間スピーチ(交替制で一日一人)

 ⑦服装点検

 ⑧体操(ラジオ体操、安全体操)…この体操は朝礼前にやる場合もある

 ⑨作業グループ毎に分れて打ち合せ

 ……以上のような行事を約十五分から二十分かけて実施する。

 

第八章 日常の指導とチェックのリーダーシップ 

 

①朝礼の重要性とその活用のコツ -毎日のたゆみないOJTの威力-

 

 組織はコミュニケーションでなりたっており、構成員の意思統一が組織を活性化し、強化する。そのコミュニケーションの最初のステップが朝礼である。

 

 朝礼はコミュニケーションすなわち組織の活性化にとって不可欠の行事である。したがって、すぐれた会社ほど朝礼を重視し、熱心に続けている。「継続は力なり」で、その根気の良いくりかえしと積み重ねが、その経営を日々強化していくのである。

 

 朝礼はOJTでいえば口のOJTにあたり、毎日のもっとも確実なOJTといえる。このOJTにより意思統一が進み、みんなが同じ考え方で仕事につくから、いわゆる相乗効果が生まれてくるのである。

 

 朝礼重視で最も有名なのは松下電器グループの朝会(夕会もある)で、このたゆみない継続があのすぐれた経営を創り上げていったともいえるほどである。中小企業でも、他社から見学にくるほど徹底したやり方をしている新潟の新東洋自動車の例もあり、気合の入ったきびきびした朝礼はいかにもすがすがしく、一日のスタートとしてまことにふさわしい行事といえる。一年の計は元旦にあり、一日の計は朝礼にありというべきであろう。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑲退職した上司はお知恵拝借に最適 -岡目八目の遺産を引続き頂戴-

 

 前項の続きであるが、知恵を拝借すべき上司は、今の上司だけではない。他のポストに移動した旧上司からも、さらには定年退職した上司からも知恵を借りるようにしたい。

 

 とりわけ、定年退職して、隠居生活に入り悠々自適としている旧上司は、とりわけかつての部下の訪問を大歓迎してくれるものである。何が淋しいといって、引退したあと、誰も訪ねてくれない。話に来てくれないことほど淋しいものはない。

 

 そこへウィスキーなどをぶら下げて訪ねてくれるのだから大よろこびされる。ましてや自分の経験を頼っての相談ともなれば大感激である。在職時代にはいえなかったホンネの、とっておきの情報も語ってもらえるのだから、訪ねないのは損である。

 

 それに、退職して、会社に距離を置いて眺められるようになると、いままで見えなかったものが見え、わからなかったこともわかるようになる。この一つレベルの上がった岡目八目のアドバイスまで得られるとあっては、訪ねる方はこたえられないものである。

 

 旧上司にもよろこんでもらい、こちらも、たくさんの知恵を頂戴できるすてきな互恵のいとなみである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑱何事も上司に相談をもちかける -上司の知恵はすべていただく-

 

 補佐のリーダーシップの最後にあたって、補佐の極意として、何でも上司に相談をもちかけ、お知恵拝借することを勧めたい。

 

 お知恵拝借とは、相手が知恵を持っていると認めることであり、賞賛していることにほかならないから、人は必ずよろこぶものである。上司ももちろん例外ではない。例外でないどころか、大いに望んでいるものであるから、知恵を借りにいけばいくほどお互いの関係はよくなり、緊密になる。

 

 人間の知恵は、本人もよく知らないほど、無尽蔵なものであるから、大いに利用するに限る。知恵を借りにいく時のコツは、漠然とした聞き方でなく、マトを絞って、ポイントについて聞くことである。その方が適切なアドバイスが得られるものである。

 

 不思議な縁で上下の関係ができた上司からは、その関係が続いているのをチャンスと考え、すべての知恵をいただき、吸収しようというぐらいの意気ごみでやるべきだ。

 

 これこそ「上使」としての上司の活用法の最たるものである。上司も聞かれれば聞かれるほど、良い部下を持ったとよろこんで、惜しみなく教えてくれるはずである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑰上司との相性が悪い時は? -良い所もあるはずと心して探す-

 

 部下に相性が悪い人がいるのと同じように上司にも相性の悪い人がいるものである。

 

 この場合の考え方も前のケースと同じことである。すなわち、自分の悪い面で共通しているものがあり、醜さを直視するのがいやさに、肌が合わない、虫が好かないとなるのである。上司も同様に感じていると思っていい。いやな奴を部下に持ったと嘆いているにちがいない。

 

 これに対するあり方も前と同じである。悪い面があれば、それとほぼ同じか、それ以上に良い所があるはずである。それをつとめて発見し、それを高く評価し、学びとるようにすることである。

 

 すると、不思議なことに、上司の方も、こちらに反応するように、補佐する側の良い所を見つけ出し、信頼してまかせてくれるようになる。まさに「お互い様」なのである。

 

 鏡に対して。笑顔、美しい顔を見るようにお互いの良い所を見ることのできる人は、しあわせである。しかし、人事部門としては、似た者同士でなく、陰陽相補うような違った個性のペアを組むべきであろう。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑯上司と意見が対立した時どうする? -上司がなぜそういうのか考える-

 

 経営の将来にとっても、上司の業績についてもプラスになると考えて作成したプランや意見具申が上司に容れられず、対立した時にはどうすればいいだろうか。

 

 やはり、第一は、その考え方がまだ不十分で甘かったと反省すべきであろう。こちらが良かれと思って出したアイデアが、必ずしも上司にとって良くないとされるのには、必ず何かの理由がある。

 

 たまたま、他に上司を悩ませている問題があり、そのイライラから内容をよく吟味もせずに否定されることもあるが、そういう時は、しばらく凍結させておけばよい。

 

 上司の精神状態が正常化したら、「あれはどうなった」と、再び催促されるまで寝かせておけばよいのである。「待てば海路の日和あり」である。

 

 また、こちらの案に重大な過失、見落し、または危険な予断があったのかもしれない。これは案や意見を、やはりしばらく寝かせておいて、しばらくして取り出して検討してみるとわかってくるものである。

 

 いずれにしても「せいては事を仕損じる」で、待つにこしたことはないのである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑮トップとユーザーの立場で考える -すぐれたプランを出す急所-

 

 すぐれたプランというのは、作成者にとっては主観的にどんなにすぐれていると自賛しても、上司とりわけトップからみてすぐれているものでなければ、単なる思いつきとして却下されてしまう。

 

 トップから見てすぐれているというのは、経営にとってプラスであり、収益をもたらすものであると同時に、トップに栄光をもたらすものである。そして、究極にはユーザーにとってプラスになるものでなければ、収益に結びつけることはできない。

 

 したがって、補佐役としてのリーダーは、プランを立てるにあたって、可能な限り、トップおよびユーザーの立場に立って考えぬくことが大前提となる。

 

 アメリカのトップの場合は四半期ごとに業績を株主から評価され、悪ければ簡単にクビにされるところから、あとの経営者にプラスになるような長期にわたる投資プランは採用されない。ここにアメリカの産業が衰退した基本的原因があるとされている。

 

 日本はその点、株主の性格が違うため、長期投資計画はじっくりと検討される。しかしいまの経営者の存在中に一定の成果か評価がなされるものであるのは必須であろう。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑭上司を乗り越えていいのだろうか -いぶし銀の光をトップは見ぬく-

 

 上司を乗り越えるべきかどうかについては、基本的には乗り越えるべきだといいたい。昔から「出藍のほまれ」ということばがあるように、部下や後輩が自分を乗り越えて成長することを、むしろよろこぶのが、指揮の卓越性を証明することとなってきた。

 

 しかし、乗り越えたかどうかを判定するのは、その本人ではなく、周囲のメンバーであり、上司や人事部門である。本人が乗り越えたと自惚れていても、実はそのようには評価されていない場合が多い。

 

 つねに上司を第一の目標とし、追いつき、追い越したいと努力しつつも、やはり上司にはまだまだ学ぶべき側面が多々あると、謙虚に努力を続けていると、それが高く評価されるのである。ギラギラと自分の才能をひけらかすのではなく、いぶし銀のように、ひかえ目に才能が光ってみえるほうが奥床しく、信頼されるのである。

 

 上司をリードしたと思い、上司に対して小馬鹿にしたような態度をとるようでは、人々は人間としてレベルが低いと、昇進へ難色を示すものである。

 

 有能な人ほど謙虚であり、謙虚だからこそ有能と見なされるのである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑬上司が愚かに見えるようになった時 -元労組幹部の立場を忘れよ-

 

 不幸なことだが、時に上司が愚かに見えてくることがある。実際にはそんなに劣っている人物が役職についているはずはないのだが、上司のミスが重なったりして、部下から見るとダメリーダーと見られてしまうのである。

 

 また、特に上司が劣っているわけでもないのに、たまたま部下が労組幹部となって、社長・専務と対等の話し合いをし、見識も広くなり、任を終えて職場に戻ると、上司が劣っているように見えることがある。しかし、こうした見方は間違っていると思うべきである。上司を補佐する立場にある者としては、次のように考えるべきであろう。

 

 人間に完全な人はいるものではない。誰でも、欠陥はあるしミスもする。この足りないところをカバーするためにこそ、補佐は必要なのである。

 

 労組幹部時期のことは、自分が組織の代表であったために、視野が広がったのであり、例外の時期と思うことである。これからはそうした見方と、下からの見方の両方を活用して、より適切な補佐をするようにつとめることである。労組幹部意識は忘れ、補佐に徹すれば、かえってその存在は輝いて見え、やがて抜擢されるものである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑫上司ににらまれて左遷されたら -不運は運のはじまりと考えよ-

 

 意見が対立したり、重大な失敗をして左遷されたリーダーはどう考えたらよいだろうか。ハラを立てて、やめるのも一法だが、これもまた人生の一つの試練と考え、腰を落ちつけて考えてみるのがいい。一世を風靡した各界の成功者の伝記を調べてみても、たいていの成功者が一度や二度の挫折や左遷の憂き目にあっていることがわかる。

 

 そういう人物は左遷を一つのチャンスと考え、自分の充電の期間とし、そのポストに全力を注いでマスターするとともに、逆境を勉強の場としているものである。

 

「逆境にまさる教育なし」と昔からいわれている。災を転じて福となし、やや外れた位置から自社や業界を眺めてみると、岡目八目で問題点がよく見えてくる。

 

 そこで、もし、自分がカムバックしたら、どうすればよいかを、いろいろな角度から研究してみることである。そうすれば、次々に良いアイデアが思い浮び、楽しくなる。

 

 そのうちに、上層部では、情勢がかわり、左遷した上司の方が左遷され、カムバックするチャンスが訪れるものである。そこで熟慮作成した案を実施し、大いに業績を上げ、出世コースに乗ることができるのである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑪上司のブレーンとしての知恵の出し方 -否定しておいて自分の案にする上司-

 

 補佐は上司のブレーン、知恵袋になることである。だから、どんどん知恵を出し、上司をよろこばせてみよう。そうすれば、そこから良い知恵が必ず出てくるものだ。

 

 良い知恵というものは、はじめから良いとわかるようなものは、そうあるものではない。むしろ、ほんとに良い知恵は、現状とかけはなれすぎているために、ダメなアイデアと見えることが多いのである。

 

 だから知恵を出すというのは、既成概念で評価して良いと思うものだけでなく、くだらない、ばかげていると思う案もどんどん出すことである。また、未完成、未熟のものでもアイデアと思えば出しやすくなる。リーダーはそう仕向けていくことが大切である。

 

 上司の中には、部下のアイデアに難癖をつけて、否定しておきながら、一ヵ月ぐらいたつと、そ知らぬ顔で、その案にちょっと手を加えたソックリのものを、自分の案として提起し、実行に移す人がいる。そうなっても、結局は自分の案が採用されたことになるのだから、「もって瞑すべし」である。上司は部下の案をチャッカリいただいて自分の案にしたのだから、精神的に借りができる。それで良いのである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑩いやなことをいってくれといわれても -やはりほめてもらいたい人間の心-

 

 上司の中には、下から見て気がついたら、俺のいやなことでも遠慮なくいってくれ、それがほんとの補佐というものだという人がいる。本人は本気で、まじめにそう思っているのである。しかし、これを額面通りに受け止めて、上司の欠点と思われるものについてズケズケと意見をいったりすると、とんでもないことになる。

 

 なぜなら、どんな人でも、自分の欠点をあからさまにいわれたり、ケチをつけられたりすると面白くないもので、それも一度や二度ならまだしも、何度もいわれると不愉快になり、やがては怒り出すものである。やはり人間は本質的に、ほめてもらいたい、評価してもらいたいと内心思っているものだから、一つ欠陥をいう時には、二つ別のすぐれたところをほめてからにするのがエチケットというものであろう。

 

 ごく親しいトップにそういわれ、この人なら大丈夫だろうと、次々に物足りない点をあげていったら、だんだん不機嫌になり、それからしばらく絶交状態になったという経験が私にもある。

 

 馬鹿正直にやるのは、やはり人間をよく知らない証拠と大いに反省したものである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑨上司への意見具申のコツ -上司にプラスになるように工夫-

 

 補佐の重要項目の一つに、上司への〝意見具申〟がある。意見具申とは、平たくいえば提案であり、アドバイスで、この意見具申は、上司のプラスになるように工夫されたものであることが第一の必要条件である。

 

 先にも述べたが、「人に協力してもらおうと思ったら、協力したら、どんな良いことがあるか教えなさい」という金言がある。上司への意見具申も同じことである。

 

 その提案が上司にとってどのぐらいプラスになるのかを、具体的に鮮明に説明できるか否かが、意見具申が成功するかどうかのカギである。

 

 意見具申のもう一つのコツは、そのプランがあまりに完璧すぎないことである。上司の中には、部下のアイデアが良すぎて不安になり全面的に否定したり、無期延期にしたくなる小心の人がいるものである。

 

 だから、第一案は意図的に欠陥の多いものを用意し、上司がそれを批判し、改善をいうようにし、実際はいちばんやりたい案を第二案として出し、「上司のアドバイスでこんな立派なものになりました」といえば、上司は満足してOKを出すものである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑧報告の基本は結論が先、説明は後 -報告上手が補佐のプロ-

 

 報告は、上司の立場に立ってすることが基本であるのはいうまでもない。上司がいちばん聞きたがっているのは結果であり、結論なのだから、報告は結論が先、説明は後にするのがルールということになる。これは口頭の場合も文書の場合も同じことである。

 

 文書も結論を大きめの字で書き、大切なところは傍線やアンダーラインを引くことも必要であろう。また、一目で結果がわかるように折れ線グラフや柱状グラフを用いたり、改善の前と後を写真で対比するなどの工夫をする。

 

 報告者は自分の努力を知ってほしいために、つい説明を先にしたり、長くしたりしたがるものだが、上司は忙しく、時間を有効に使いたいのだから、説明は求められないかぎり、できるだけ短くしたり省略したりするのが、報告のエチケットというものである。

 

 また、人間は歳をとるほど、先が短くなるので、急ぎたくなり、せっかちになりがちなようである。その気持を察し、できるだけ簡潔に、要点を要領よく報告するのが補佐のプロというものである。また、報告したあとで、「このような報告のしかたでよろしかったでしょうか」と、上司に尋ねるのもエチケットであろう。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑦補佐協力の第一は適切な報告 -上司の気持を汲んで先手の報告-

 

 補佐協力の第一は何といっても、適切な報告である。

 

 上司は自分のやるべきことをまかせているのだから心中大いに不安である。部下が補佐に失敗した時には、結果責任を問われるのだから不安を抱くのは当然のことである。

 

 しかし、まかせた以上は、いちいち口を出したり、どうなっているかと心配そうに聞くのは部下を信頼しないことになり、やる気を削ぐのではと懸念して遠慮しているのである。その上司の気持を察して、催促される前に進んで報告するのが、行き届いた補佐のあり方といえる。それも、結果報告だけでなく、中間報告をできるだけすることである。上司からそんなにひんぱんに報告にこなくてもいいよといわれるぐらいでちょうど良い。

 

 マネジメントの基本は「状況の先取り」である。報告もまた同じことで、先手先手とツボを押えて報告することである。

 

 報告をよくしてくる部下は、上司としては安心だから、ますます多くまかせるようになる。報告上手はまかされ上手である。まかされて補佐する部分が増えるほど、その人物が高く評価されることはいうまでもない。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑥鳥瞰と虫視の一体化で仕事は万全 -下からも見られるのが部下の強み-

 

 上司の立場に立って考えるとは、いまの自分の立場より高い所から仕事を見ることである。これを「鳥瞰」という。鳥のように見おろすということである。

 

 別のいい方では「巨視」ともいう。マクロ的に大きく見ることである。

 

 鳥瞰に対して、地面をはうようにして見ることを「虫視」という。巨視に対しては微視、マクロ視に対してはミクロ視である。この鳥瞰と虫視を両方じっくりやることにより、物事を正しくとらえることができる。片方だけではどうしても不完全になる。

 

 微視だけだと、木を見て森を見ずになりやすく、巨視だけだと大づかみになりすぎて、低成長時代の微のマネジメントができない。微のマネジネントとは、微差は大差、微の集積(チリもつもれば山となる)、微欠陥の撲滅、微妙な調整、微笑サービス等である。

 

 「会社は上から見ると三月たってもわからないが、下から見ると三日でわかる」とよくいわれる。部下の強みは、この下から見ることのできるところにある。だから、その現実の微妙なところをよく知った上で、上司の立場から巨視的にとらえることができるなら、マネジメントは万全ということである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

⑤補佐の基本は上司の立場で考えること -上司の心になれば急所は明らか-

 

 補佐というはたらきの中で、基本的なものは、まず「上司の立場に立って考える」ことであろう。上司の仕事の一部をまかせてもらうのが補佐だから、上司の立場に立って考えるのは当然のことである。

 

 しかし、上司の立場に立って考えるといっても、上司の考え方を知らないことには、その立場に立てるはずがない。

 

 それには、まかされる前から、常に上司の発言や行動に留意し、メモをして、上司がどのように考えているのかを研究しておくことである。それでもよくわからなければ、聞いてみるのがいちばん良い。「人に聞くより良い知恵はない」である。

 

 補佐には、上司にまかされてする正式の補佐と、いちいちいわれなくても、上司の心を察して、進んでやる暗黙の補佐とがある。この後者の補佐を心がけていると、上司がこれに注意、訂正、評価、感謝といった反応をするから、上司の考えを知ることができる。

 

 補佐は、上司が仕事をやりやすいように気を配ることであり、より重要な仕事に専念してもらうために下位の仕事をまかされることであるということを忘れずに……。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

④まかせ上手は、補佐上手 -まかせの拡大が補佐の増強となる-

 

 これまでの説明でおわかりのように「まかせ上手は補佐上手」となるものである。まかせを拡大した分だけ、補佐が増強できるのだから、補佐を増大するためには、計画的に着々とまかせをひろげていく必要がある。

 

 補佐は上位代行だから、補佐をどんどんひろげていくと、上司の仕事の大部分をまかされたことになる。同時に、反面は自分の仕事も大部分はまかせたことになる。

 

 こうして、上司になるための資格要件、能力経験が積み重ねられていき、やがて上位の任務に正式に昇進昇格できるようになる。部下もまた、上の地位にレベルアップされるチャンスが着々と生まれてくるのである。補佐代行とまかせは、このように裏腹になっているということをよく理解してほしい。伸びている会社、繁栄している会社は、このような補佐とまかせの連鎖反応が、とてもうまくいっている会社である。

 

 反対に、ダメな会社は、上司が部下の仕事を取り上げ下位代行をしているものである。いちばん下の者はやる仕事がなくなり、遊ぶか、つまらぬ仕事をわざわざ作りだして、ムダ作りをしているので会社はダメになる。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

③補佐するためには、まかせが前提 -まかせたゆとりが補佐になる-

 

 補佐というのは、本来上司がやるべき仕事のかなりの部分をやらされるものだ。ところが、その補佐も部下でありながら一方では上司でもある。当然手いっぱいの仕事を抱えこんでいるから、それ以上に上司の仕事を引き受けるのは容易なことではない。

 

 そこで、自分の仕事の一部を部下、メンバーにまかせ、ゆとりを作る必要がある。補佐は、部下に仕事の一部をまかせて生まれたゆとりでやるべきものなのだ。したがって、補佐するためには、まかせが前提になるということである。〝まかせたゆとりが補佐になる〟、このことをリーダーはよく肝に銘じておく必要がある。

 

 まかされた部下も同じことで、一つずつ下のランクにまかせていく。そうすると一番下の者が、そのしわよせで重荷になりはしないかという心配が生まれる。

 

 その心配は上司、リーダーが協力して、重要度の低い仕事をカットしたり、機械化してカバーするのである。これをほんとうの合理化というのである。押しつけとまかせは本質的に違うことを知らねばならない。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

②プロリーダーは上司使いの名手 -上司の権限をフルに活用する-

 

 プロといわれるリーダーは「補佐」を次のように考えている。

 

 補佐とは、上司の権限を上手に活用して、やるべきことを達成することである…と。

 

 上司は一般に大きな権限、とりわけ決定権を持っている。これを十分に活用すると大きな仕事ができる。上司がその権限をうまく使えるように、良い案を出し、上司が進んで決定するように段取りをするのである。

 

 その場合、良い結果が出れば、もちろん決定をした上司の功績になる。しかし、実質的には部下がやってほしいことを実現できたのだから、たいへんなプラスである。これを俗に「花をあたえて実を取る」といい、このやり方が巧みなのをプロリーダーという。

 

 官公庁や大会社では、大きな計画のすべては課長以下のクラスで案を練る。主役になるのは気鋭の係長クラスの若手である。彼等は、大きな組織の方向を決定する大計画の素案を作るのに非常な生きがいを感じ、猛烈に勉強し、討議し、案をつくり上げる。

 

 これを稟議書という形で、下から上へ、トップにまで回し、決裁を得て実施に移るのである。こうして部下は上司だけでなく、会社や国まで動かしているのである。

 


第七章 上司を補佐するリーダーシップ

 

 

①上司は「上使」と心得よ -活用するためにこそ上司はある-

 

 リーダーの主要任務に上司の補佐がある。補佐とは文字通り、上司を補い助けることである。「佐」には助けるという意味がある。そこで、上司を補佐するにあたって、まず上司をどうとらえるのか、考え方を明らかにする必要がある。

 

 上司は部下に対することばであるが、職制上、上位にいるマネジャーであることはわかりきった話である。軍隊では上司を上官というが、職人の世界では親方、ヤクザの世界では親分といったりする。組織を家族と考えると上司は親代りになるわけである。上位にいて仕事について指示命令するのが一般的な上司の定義であるが、すぐれたリーダーは、少し違ったとらえ方をしている。

 

 上司のとらえ方のユニークなものに、上司を「上使」と考えるものがある。部下は上司に使われる存在であるとともに、上司は部下に上手に使われる存在と考えるのだ。 

 

 上司は部下に活用されるためにこそ存在しているという考え方はすばらしい。実際にすぐれた上司は、部下にうまく使われているものである。日本の経営組織が世界をリードしているのは、実はこのようなシステムが自然に形成されてきた所にあるともいえよう。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉙問題を解決した後はどうする? -これでいいのかと深く考えよう-

 

 ようやく問題を解決してホッとする気持はよくわかるが、すぐれたリーダーはそれで安心してしまうことはない。もっと違った解決法、もっと良い解決法があったのではないか、 「これでいいのか」という飽くなき追求の姿勢が、プロリーダーのあり方である。

 

 この世の中には、めったにベストということはない。ほとんどがベターであるから、まだまだベストに至るステップはたくさんあると考えるのが正しい。

 

 さらに、一つの問題を解決すると、必ずといっていいほど次の問題が発生してくるものである。原子力発電で石油ショックを克服したというのも束の間で、チェルノブイリ事故を典型としたおそろしい公害が発生するおそれが生まれるなど、悩みは尽きることがない。

 

 明治以来の三大国民目標である、①みんな豊かになりたい、②みんな長生きしたい、③みんな上級学校に進学したい・・・という願いは達成されたのに、まだまだ不満はたくさんある。土地問題、高齢者問題、高学歴者にポストがない等の次の問題が発生している。

 

 物や金が豊かになったら心の豊かさを求めるなど、常に問題意識を持つよう心がけたい。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉘リーダーが自信を失いかけた時 -何を頼りに生きていこうか-

 

 リーダーも時として自信喪失しかけることがある。大きな失敗をしたり、目標を大きく下まわったりした時である。そんな時、「何を頼りに生きようか」という気持になる。宗教に向かう人もいるだろうし、旅に出て気分一心する人もあろう。

 

 しかし、いちばん良いのは信頼する上司・先輩を訪ねて悩みを告白し、指導を仰ぐことである。「悩みは、人に聞かれることにより半減する」という法則の実践である。

 

 上司・先輩は必ずや適切なアドバイスやヒントをくれることであろう。だが、結局は自力で立ち直るしかないのである。その急所は、失敗や未発達の原因を、眼をそらさずに深く見つめ、分析してみることである。そうすれば、きっと何かがつかめるはずである。 

 

 「わざわいを転じて福となす」がプロリーダーの本領でなければならない。明日の成長発展の起爆剤は今日の失敗の中にある。

 

 ホンダの創立者本田宗一郎は「私は99%失敗し、残り1%の成功で今日を築くことができた」といっている。これは99%の失敗を肥料としたからこそ、1%の芽が大きく成長し、一代にして世界的企業を作り上げることができたと解釈すべきであろう。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉗自分で自分の首を絞めるのは反対 -説明不足が招いたアレルギー-

 

 小集団活動は自主管理活動というが、「管理」を、もし「自由を奪うこと、制限すること」と解釈すると、自主管理活動はまさに自分で自分の首を絞める活動になる。それではQCサークルは「ネクタイ運動」になり、QCは「クルシイ」になってしまう。

 

 これは「管理」ということばの正しい教育が十分になされていないことから起こる誤解である。

 

 「管理」はコントロールでなく、正しくはマネジメントである。マネジメントは計画的に仕事を進めることである。昔のマネジメントは、PDCAのPすなわち計画はもっぱら上司または専門スタッフがやり、部下はその作られた計画をD、すなわち実行させられるだけであった。だから「他主管理」または「ドウのみ管理」だったのである。

 

 ところが小集団による自主管理活動では、PDCAのすべてを自主的にやり、プランの段階から自主的にやるという点で画期的なのである。

 

 それをやらされる活動ととらえたり、自分で自分を苦しめる活動ととらえるのは、大変な間違いである。上司リーダーはよくこの根本を教えておかなくてはならない。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉖発表担当をいやがり、仮病を使う -不安がもたらす一時的気の病い-

 

 QCサークルなどの小集団活動では、発表会で大勢の人の前で発表することが、その人に自信をつけ、成長の大きなキッカケとなるから、交代で発表係になることにしている。

 

 ところが、それがどうしてもイヤで、こわくて、発表の当日か前日に病気になってしまう人がいる。まさに気の病いで、仮病といわれても仕方がない。そこで、お役御免にするとケロッと治ってしまうからおかしい。それほど精神的な重圧になっているということをリーダーは察した上で、その人に合ったやり方を工夫することである。

 

 ①一人で発表させるのでなく、漫才のように二人でステージに立たせる

 ②はじめはスライド係等で人の注視に慣れされ、次第に発表係にレベルアップする

 ③観客に背を向けて、原稿を読みあげるようなしかけを作り、だんだん前向きにしていく。はじめはスポットライトを当てない

 ④手にいろんなものを持たせ、観客の眼がそちらの方に行くようにする・・・等々、いろいろ工夫してみることである。発表に万雷の拍手が寄せられるとすっかり自信がつき、また発表したくなるものである。人生の晴舞台なのだから・・・。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉕役割分担したのに役割を果たさない -自分勝手のわがまま、心の発育不全-

 

 役割をみんなで決め合い、全員が何かの役割リーダーになることを申し合わせたのに、その役割をきちんと果たさない困った男がいる。これにも何かのワケがあるはずだが、それをつきとめる必要がある。考えられるのは次のような理由である。

 ・役不足と思っているのか。もっと重要な役割についてほしいと思っているのか

 ・役割を果たす能力に欠けているのか。それとも、やり方がわからないでいるのか

 ・ズボラで、無責任で、ちゃらんぽらんな男なのか・・・等々

 

 そのいずれかで対策も決まってくるもので、方法としては次のようなやり方がある。

 

 ①一人一役でなく、一人二役三役にして、ダブらせ、ペアを作る。お互いに役割リーダーであるとともに、他の役ではサブリーダーとして協力する体制にする。そうすれば力不足の場合でも二人三脚で立派に走れるものである

 ②役割について一つひとつ特訓をする。リーダーがペアになって、できるようになるまで協力する

 ③役割活動の発表をし合う。活動しないと発表できないから、やらざるをえなくなる

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉔他人の発言にケチばかりつける男 -職場の中のいじめ男の深層心理-

 

 サークル会合で、他人の話にしきりにケチをつけるいじめ男がいる。するとみんな発言しなくなり暗い雰囲気になってしまう。こういう男の深層心理も同じく、認められないことへの逆表現であり、対策はやはり、責任ある仕事を与えることである。

 

 とりわけブレーン・ストーミングの司会役にしてみるといい。ブレーン・ストーミングでは「いいアイデアを出すにはケチをつけないこと」という第一ルールがある。また「おかしなアイデアの中にこそ、すばらしいアイデアの芽がある」ともいい、「だから、これをみんなで育て枝葉をつけ、花を咲かせよう」という考え方が貫ぬかれている。

 

 したがって、このブレーン・ストミーンブの司会、推進者になると、いやがおうでも、ケチをつけることはできなくなる。

 

 もう一つの逆療法としては、その男の発言に徹底的にケチをつけることである。毒をもって毒を制するのである。怒りだしたら、「あんたが怒ったように、他の人もあんたのケチつけで怒っているんだよ。わかったろう」と説得し、これからはお互いにケチをつけ合うのでなく、ほめ合うことにしよう、そのリード役になろうと申し合わせることである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉓いつも会合をサボるしたたかな男 -自主性を逆主張するひねくれ者-

 

 サークルの会合が自主参加であることを逆手にとって、いろいろ理由をこしらえては会合をサボる人がいる。たいていは年輩者で、これもスネているポーズと見ていい。

 

 あるサークルで、どうしたらこの人に参加してもらえるかをテーマにして討議した。この人を主役にして、話を聞くことにしたら、参加しないわけにいかなくなると考え、その人の得意は何かを調べると、競馬が大好きであることがわかり、競馬と馬の話を聞くことにした。そして次にはサークルの賞金の貯金の一部を使って、その人のリードで、みんなで競馬にいき、その人のいう通り馬券を買ったところ、みんな外れで、その人はサークルの人たちに頭が上がらなくなった。

 

 その後、その人はサークル会合にはいつも参加するようになり、サークル員は競馬の損などは安いものだと笑い合ったのである。そして、こんな話は自慢そうに発表するようなものではないと思っていたところ、伝え聞いた専務に大いにほめられたという話がある。

 

 大切なのは仲間づくりの心くばりである。お互いに知恵を出しあい、認め合い、楽しくやれれば、進んで参加するようになるのである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉒忙しくてミーティングが開けない -忙しくなくても集まりたがらない-

 

 小集団リーダーの悩みについて、いくつかあげてみよう。第一は、仕事が忙しくてミーティングが開けないという場合である。これについてもいろいろなとらえ方がある。

 ・忙しさの内容が問題で、不良品を作って、そのやり直しで忙しいというのなら、ぜひミーティングをひらいて改善する必要がある

 ・もともとミーティングがいやで、忙しさを口実に集まろうとしない場合。これはミーティングを根本的に見直し、その必要性をほんとうに知るかどうかがカギとなる

 ・ほんとうに忙しくて集まれない場合は、無理に集まらなくても、テーマを決めて、メモや掲示板を使い、アイデアの寄せ書きをするといい。形は集まれなくても、心とアイデアが集まっていれば立派に集まったことと同じなのである

 ・会合を長時間と考えるから会合を開かないので、朝礼や昼休み等を利用して、10分ずつ三回やれば30分になる。コマ切れ時間を利用することである

 ・全員集まらなくても、集まれるメンバーだけでやり、あとは電話やテープやメモで参加しても立派な会合と考えることである 

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

㉑規則に書いていないことで規律に違反 -不文律をいいことに反抗デモ-

 

 職場の中には、就業規則などには成文化されていない暗黙のルールというものがある。これは不文律といわれるもので、掟といったりきまりといったりしている。あいさつ、敬語などのしつけにあたるものや、服装、髪型などもこれに入る。これらははじめに、なぜそうするのかの理由をよく説明し、規則には書いていないが守るようになっていると徹底しておくことが肝心である。どうしても必要なら内規として成文化することである。

 

 服装の場合、腕まくりしない、ボタンはきちんとかける、ねじれ鉢巻はしない、帽子はアミダにかぶらない等々である。髪は長髪やモヒカン刈りのような奇異なヘアをしない、無精ヒゲを生やさない等のきわめて常識的なことばかりである。

 

 これらは、わかりきったことなのに、不文律をいいことに、わざとやろうとするのは、やはり前項と同じく、俺は並みの人間とは違うのだ、もっと存在価値を認めろというデモンストレーションと思うことである。

 

 認めて、やりがいのある仕事をさせると、いつの間にかそうした反抗的なポーズは消えてしまうものである。


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑳遅刻・無断欠勤の常習犯の扱い -知っていてルールを破る無法者-

 

 職場の中には、遅刻・無断欠勤の常習犯がいる場合がある。彼等はそれぞれルール違反であることを百も承知のうえでやっている確信犯といえる。だからといってクビにできないだろうと、ナメてかかっているともいえる。人手不足で、ルール違反も大目に見ないわけにはいかないだろうとタカをくくっているのである。

 

 こういう人物はたいていの場合、自分としては役不足で、上司が自分をあまり認めていないと感じている。そのくせルール違反をしてもクビを切れないぐらい大物なのだということを、デモンストレーションしているのである。その心の中では、きわめて切実に自分を評価してほしい、認めてほしいという願望が渦巻いているのである。

 

 だから、リーダーはこういう人には、むずかしい責任ある仕事を与え、びしびしと鍛えるに限る。「君なら、その大役がつとまるはずだ。しかし、大変な仕事だから、猛烈に鍛えるぞ」といい渡すのである。

 

 無断欠勤して「俺がいなくて困っているだろう」と、自分を認めてくれない上司にしっぺ返しの笑いとつぶやきをするネクラな反抗をネアカに変えていくことである。              

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑲人不足、仕事多忙な時の残業拒否 -裏で糸を引く反体制グループ-

 

 仕事は多いのに人手不足で、どうしても残業が多くなりがちな時、意識的に残業を拒否する者がいる。それも特に私用があるとか、通学のためではなく、労働思想的な反体制グループの方針にしたがって拒否をするのである。

 

 職場の仲間とて、好きで残業しているわけではない。金のためでもない。ひたすらお客様の需要に応えんがための犠牲的献身である。ところがタテマエをふりかざして反対するのだから、まわりの人はイヤな顔をする。自分一人良い子になって、仲間に悪いと思いながら、別の仲間に義理立てして抵抗しているのである。

 

 ところが、あるリーダーはこの男に雷を落とした。「どんな理屈があろうが、仲間がお客様のために苦労しているのにソッポ向くなんてとんでもない。残業をやれ!」

 

 そうするとその若い男は待ってましたとばかりに仲間とともに残業を始めたのである。仲間の方針に忠実に従おうと思っていたのだが、上司に強制されて仕方なしにやったという大義名分が立つためである。以来その男は文句もいわず残業に精を出している。リーダーも時にはこういうやり方をするのもいい。          


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑱一人でしゃべりまくるひとりよがり -欲求不満の固まりはよくしゃべる-

 

 ミーティングでは無口の人も困るが、一人でしゃべりまくり、みんなのことを考えようとしない一人よがりの人も困るものである。他人の話の腰を折って関係なく思いついたことをしゃべり出すので司会者は大苦労という場合がある。

 

 こんな人は欲求不満であることが多く、話を独占して自己顕示欲を満足させている。基本的にはその欲求不満は何かをつかみ、それを解消するようにしないと治らないが、司会のテクニックとしては、次のようなものがある。

  ・はじめに釘をさす  一人連続二分以上話さないこと。それで止まらない時は、司会

   者の権限で話の途中でもストップをかけるなど、はじめにルールを徹底しておく

  ・司会者の隣に座らせて、話が長くなったら手で制する(これは無口の人も同じで、膝

   を叩いて「このあたりで良い意見を」と励ます)。要するにスキンシップである

  ・グループ討議を横から観察させ、感想を述べさせる。ひとりよがりの発言がいかに見

   苦しいものかを、悟らせる方法である

  ・それでもダメならきびしく戒める

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑰会合でひとことも発言しないメンバー -無言にこめられた怨念・叫び-

 

 小集団リーダーが困るのは主としてミーティング関連である。

 

 その一つに、会合でダンマリをきめこんでさっぱり口をきかない人がいることである。

 

 口下手がいちばん多いが、ふだんよくおしゃべりしているのに、会合になるとバッタリと口をつぐんでしまう人も多い。

 

 その理由には次のようなものが考えられる。いずれも、「もの言えば唇寒し」「言わぬが花」ということである。損をするから話そうとしないのである。

 ・うっかり話すとケチをつけられ、恥をかく(一度そういう経験をすると黙る)

 ・何か積極的な提案などをすると、すぐいい出しっぺがやれと押しつけられる

 ・いいたいことをうまく表現できない。人前で気のきいたことがうまくいえない

 ・タテ板に水式の能弁でないとダメだと勝手に思いこんでいる。……等々

 

 これらのうち、もっとも多いのは、話をしてケチをつけられ、腰を折られて恥をかかされたうらみである。二度と口をきいてやるものかと、かたくなに思っているわけだ。

 

 リーダーはこの心中の叫びを察して出番を作り、名誉回復につとめることである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑯困った存在のケガの一手引き受け人 -まじめ人間も時には大ケガ-

 

 パレートの法則は安全管理についてもいえる。

 

 大小の災害の八十%は、特定の二十%のケガの一手引受人がしょっているものである。

 

 こういう人は注意力散漫か、動作がにぶいか、思いこみの強い人である。まちがった動作を正しいと思いこんでケガをしてしまうのである。また生兵法は大ケガのもとというように、ちょっと上手になった時に、油断して大ケガをする。自動車運転の場合に多い。

 

 昔の人はとりわけ安全教育をしなかったのにケガは少なかった。それは基本動作が条件反射的に正しくやれるようになるまでゲンコツで鍛えられたからである。身体におぼえさせ、無意識でも正しく行動できたからである。基本動作こそ安全動作なのである。

 

 したがってケガの一手引受人には、条件反射的に正しい動作ができるよう根気よく、繰り返し安全教育をすることである。そうすれば、ケガは激減し、ゼロ災達成が可能になる。

 

 ところが、ふだんケガをしないまじめ人間が時として大ケガをすることがある。こういう時は私生活に起因していることが多い。たとえば可愛い子供の病気が気になって……などである。そういう時は仲間がよく見守って、注意すれば防ぐことができるものである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑮オシャカばかり出すあわて者 -おっちょこちょいの厄介者-

 

 品質管理の分野では、イタリアの経済学者パレート博士が発見したパレートの法則が好んで用いられる。これは大ざっぱにいうと、八十・二十の法則ともいう。たとえば不良品(オシャカ)の八十%は、たくさんある原因のうちの二十%がもっぱらもたらしているという風に考えるのである。

 

 これはその二十%の原因を集中的になくすよう努力すると、不良品は八十%減ってしまうということである。たとえば、ある職場の不良品の八十%は、十人いたとしたら二人のあわて者、おっちょこちょい、あるいは不器用者が生み出していると考えられる。

 

 するとこの二人(二十%)の者に徹底して教育するか、不良が出ないように機械化・ロボット化するか、仕事をさせないようにするかすれば不良は激減することになる。

 

 そのどの方法を選ぶかはリーダーの判断次第である。いくら教育してもダメなら、担当を変えるしかない。あるいは誰がやってもうまくいかないのなら、思い切って機械化し、バラツキの多い人間にやらせないようにするという手もある。いずれにしても、その二十%の主要原因の除去に全力を投入しなければ不良品は減らないのは確かである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑭部下運の悪さを嘆くようになったら -部下も同じく上司運を嘆いている-

 

 リーダーの中には、「なんでまあ人事課は選りに選って、俺の所へデキの悪い連中ばかりよこすんだろう」と部下運の悪さを嘆き、ハラを立てている人がいる。

 

 ところが、面白いことに、その部下達もまた同じように、選りに選ってひどい上司のもとにまわされたものだと、上司運の悪さを嘆いているのである。

 

 これを「お互い様」という。

 

 そうではなく、この人手不足の時代に、うちの職場にはなんと良い連中が集まってきたのだろうと感謝の心をもつことである。くせのある人間が多いが、くせは長所であり、取り柄である。「これを伸ばし育てたら、凄い軍団になるぞ」と、反対に大きな期待をもつことである。リーダーの中には、よその職場の持てあまし者ばかりを出してもらい、その連中でチームを組んで、凄いユニーク軍団に育てあげた名リーダーもいる。

 

 悪に強い者は善にも強い、マイナスに強い者はプラスになったらもっと強いと思うことである。そうすれば「人生意気に感ず」で、みんな張り切り、良い面ばかりがどんどん出てきて、すばらしいチームになっていくものである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑬肌が合わぬ人物をどうしたらいい -虫が好かぬ人間は必ずいるもの-

 

 人間の集団の中には、一人や二人は、どういうものか肌が合わない、虫が好かない者がいるものである。これは理屈のつかない、感情的な反発である。

 

 リーダーとなった以上は、このような存在はなるべくなくすようにしないと、チームはうまくまとまらない。

 

 そこで、こういう虫の好かぬ人物に、少しでも好感を持つようにするコツを述べてみることにしよう。

 

 実は、こうした虫の好かぬ、肌の合わない連中というのは、自分にとてもよく似ているものである。誰でも自分の醜い面を見たくはない。それが鏡に映すように眼の前に出てくるからムッとするのである。磁石が同じ性質のN極とN極が反発するのと同じことである。ケチな人間はケチが大きらい、わがまま人間はわがままを毛嫌いするのである。

 

 そこでその人は、自分と同じように、悪い面もあるが、良い面も必ず持っているはずだから、その面をつとめて見出すようにすると、いつの間にか反発はなくなり、お互いに好意関係が生まれてくるものである。感情に対する理性の勝利である。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑫思想をもって反抗する批判グループ -自分の存在価値を認めてほしいのか-

 

 最近ではイデオロギーは流行らなくなり、思想的な労組活動もひと頃に比べるとずっと下火になったが、それでもまだ特定の思想を持って反抗する批判グループがあるようだ。

 

 しかし、ほんとうに思想的な確信をもって反体制に走る者は、ごく例外であり、大部分は自分の反抗心に箔をつけるために、思想の仮面をかぶっているものである。そして暴走族と同じく、一人では弱々しいが、グループを作ると、とたんに元気がよくなり、いわゆる徒党を組んで反抗するようになる。しかし、もともとベースがベースだから、グループのリーダーが挫折すると、〝親亀こけたら皆こけた〟になるものである。

 

 したがってこういうグループをなだめるには、リーダーにマトを絞るに限る。 

 

 そのリーダーも、もともとは、自分の存在価値が認められぬ不満からマイナス・リーダーになり、みんなの不満の代表者として支持されることで自尊心を満足させているものである。だからそのリーダーの実力を認め、重要な仕事の責任者にし、思い切ってまかせると、そのグループともども、協力的になってくる。存在価値を認め、力量にふさわしい責任を与えるのがコツといえよう。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑪何かにつけてたてつくヘソ曲り -例外を認めろと迫るワルの処置-

 

 よそから移ってきた新任のリーダーに対して何かにつけてイチャモンをつけ、反対し、たてつこうとするヘソ曲りがたまにいる。

 

 こういう連中は、職場のインフォーマル・リーダーとしての実力を新任リーダーに認めさせ、いろんな点で自分だけは例外扱い、一目置かせようという魂胆なのである。

 

 こういう場合、ひるんだら新人リーダーの負けである。基本は「最初の例外を許すな」である。一人に例外を認め、ルール違反を黙認すると、二人目、三人目のわがままをおさえられなくなり、職場は無法地帯化する。

 

 新任リーダーは上司と緊密な連携をし、不文律的なルールに対しては、断固として注意をし、毅然として指揮権を発揮することが信任への第一歩となる。

 

 たとえばベルがまだ鳴らないのに勝手に作業をやめ、手を洗い、食堂にかけつけようとするといったケースである。

 

 例外を認めない理由をみんなに納得のいくように説明し、暗黙のルール違反は許さないと明言することである。そうすれば前例があっても新しいルールが確立されるのである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑩やる気を失った年長者の扱い -定年までほっといてくれと尻まくり-

 

 年長者の中には、もう定年も間近なことだし、ほうっておいてほしいと、もはやあきらめの心境で、尻まくりの開き直りの状態になっている人がいる。

 

 もうこれ以上出世する見込みもないし、収入をこれ以上増やそうという気もない。ひたすら退職金の出るまで、無事平穏に過ごしたいという年長者の気持ちはわからぬでもない。

 しかし、職場の中にそうしたクールで、沈滞した部分があると、全体に影響を及ぼし、足を引っぱられるおそれがある。

 

 そこで、これら年長者に少しでも活性化してもらうように工夫し、指導せねばならない。そのコツは年長者がこれまで蓄えてきた貴重な経験や技能・技術を、先生になって教えてもらい、後進に伝え残すために貢献してもらうことである。

 

 自分たちが、もはや無用の存在となったと思えばこそ、ひがみっぽくもなり、引っ込み思案にもなる。反対にまだ存在価値があり、先生として生きた遺産を残すことができ、期待されていると思えばやる気も出、明るい気持になる。この変化をもたらすのはリーダーの腕次第である。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑨自分より年輩の部下をどうリードするか -かつて教わった人を指導する辛さ-

 

 職制への昇格も、かつては年功序列を重視していたが、実力主義の今日では、序列を越えて、若手がリーダーになる傾向が多くなってきた。

 

 そうなると、若い頃に先輩として教えてくれた人を部下にすることになり、後輩としてはまことに辛い立場となる。しかし、これは会社の方針だから致し方ない。

 

 部下となった先輩も、自分に実力がなかったのだからと、あきらめるしかないが、心中おだやかならぬものがあるのも無理からぬことである。

 

 こんな場合、リーダーとしては、公的な場面では、社長の代理という気持で、毅然として、テキパキと指揮をとらねばならないが、それ以外の場面では、つとめて先輩を立て、さらに相談役になってもらい、メンバーがリーダーにいいにくいことを代弁してもらうようにするといい。先輩はいつまでたっても先輩であり、むしろ、昔教えた後輩が出藍のほまれで、先輩や上司を乗り越えて成長することをよろこぶようになりたいものである。

 

 いまの後輩が、やがて自分を乗り越えて伸びていくことをむしろ期待する心境になれば、先輩との関係もうまくいくようになろう。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑧女性ばかりの職場の男性リーダー -女性特有の性質を知るのがカギ-

 

 女性ばかり、女性が圧倒的多数を占める職場で男性がリーダーになるのは、昔からのことで何も珍しいことではない。しかし中年のパート女性を息子のような若いリーダーがまとめていくといったケースは新しい現象といえるかもしれない。

 

 これも前のケースと同じで、女性の中から強力な人物を選んでサブリーダーとし、よく相談しつつ仕事を進めるのがうまくいくコツである。

 

 女性は、男性と違う「生理」を持っており感情がデリケートである。したがって感情によってグループを作りやすい。このグループのリーダーをサブリーダーにするのがコツである。そして「人間関係をそこなわない限りでのグループ同士の競争」が職場を活性化するのであるから、グループで競争するように、リードするといい。

 

 グラフなどを作り、一目で成績がわかるようにすれば自然にハッスルし活性化する。もめごとが起きたら、グループのインフォーマル・リーダーを呼んで話を聞き、話がつけばグループ間の対立も自然におさまるものである。男性リーダーに人間的魅力があることが望まれるのはいうまでもない。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑦男性ばかりの職場の女性リーダー -性を超越したらあとは同じ-

 

 経営者や年輩者は、古い考えにとらわれているから、男性ばかりとか、男性の多い職場で女性がリーダーになったら、リードできるだろうかと大いに危惧する。

 

 ところが男女共学で育ち、女性の方が成績が良く、リーダーになってあたりまえという若い世代には違和感がない。新人社員にグループリーダーを選ばせ、その中から総リーダーを選ばせると女性がよく当選する。その本人も、まわりの人たちも、それで当然と考えている。これが新しい時代である。日本にもサッチャーの時代がやがて来るであろうことは必至といえよう。性を超越した実力主義の時代になったのである。

 

 女性のリーダーの方が、当りがやわらかく、芯はしっかりしているので、頼もしいといわれるようになったのは、まことに従来とは隔世の感があるといえよう。

 

 女性リーダーとしては、男性の中の有力な人物をサブリーダーにし、何かにつけて相談しつつ進めていくのが、チームをうまくまとめていくコツである。しかし、肝心な所では鉄の女と呼ばれるように妥協しないことによりリーダーの権威は確立する。

 

 これからは、多数の女性リーダーが生まれる時代になっていくにちがいない。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑥世代のギャップを痛感した時どうする? -若い人に教わるのが最良の知恵-

 

 四千年前に建造されたピラミッドの廊下に古いエジプト文字で「近頃の若い者はなっていない」と落書されていたという有名な話がある。

 

 人類は昔から「近頃の若い者はなっていない」といい続け、その若い者によって文化文明が作られ、歴史は発展してきたのである。年輩者は古い考えや価値観が正しく、すぐれていると思いがちだが、半分は正しく、半分は正しくない。

 

 同じように、若い者の考えや価値観も半分は正しく、半分は未熟、不完全である。したがってお互いに教えあうのがいちばん良い方法である。相手のすぐれたものを教わり、学ぶことにより双方とも成長し充実することができる。

 

 とりわけ、年輩者、リーダーの方から、進んで学ぶ姿勢を取ることが望まれる。

 

 音楽でいえば、年輩の人はメロディ派で、歌詞の短い歌を好む傾向がある。また若い人の好きな歌はもっぱらリズム感であり、歌詞は長い。そこでやかましい音と単調なメロディに年輩者は閉口するが、リズムを味わい、歌詞をよく知ると、音楽の感じ方も変ってくる。こうして学ぶことにより話は合ってくるのである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

⑤価値観の違う若い人をリードするコツ -「若い」とは何かも問題-

 

 リーダーがいつの時代にも困惑するのは世代間のギャップである。同じ日本人でありながら話が合わないので指導に迷うのである。

 

 その第一は、何といっても価値観の違いである。価値観とは、平たくいえば、「有難味」である。物や金や仕事のない時代に育った古い世代は、物や金や仕事に大きな価値を見出し、それを保証してくれた企業に強い帰属感を持っている。

 

 ところが豊かな社会に生まれた若者たちは、物や金が豊かなのはあたりまえ、経済成長期だからどこでも就職できるので帰属感は薄い。その代りに、心の豊かさを求め、自由時間を何より求め、大切にする。だから、休日の少ない会社は敬遠されるのである。

 

 もっとも、「若さ」の定義も問題である。肉体の若さは二十五歳がピークであとは老化が進む一方である。しかし、夢と希望をもち、努力して成長する限り、肉体は老化しても心は青年である。反対に若くても人生をあきらめたら若年寄である。

 

 ほんとうの「若さ」、つまり人間的成長にまとを絞れば、新旧の世代の価値観は一致していくはずである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

④みんなで解決するのがベスト -リーダー一人で苦労するなかれ-

 

 問題は衆智を集めて解決するのがいちばんよい。リーダーが一人で難問を背負って苦しむのは、組織人としては問題である。

 

 非常に問題の多い職場に送りこまれたリーダーの場合、みんなが反目し、非協力的で、どこから手をつけていいかわからない場合、どうしたらいいであろうか。

 

 まず、みんなに率直に問題の深刻なことを告げ、衆智を結集することの重要性を強調し、リーダーとしてみんなの知恵を借りるという姿勢を明らかにすることである。しかし、これだけでは、違和感、不安感、警戒感を取り除くのはむずかしい。なぜならこれまで何人ものリーダーがこの職場で失敗してきているからだ。

 

 そこで、新リーダーは、メンバーの中の、有力な人物を見つけ出し、その人に心中を打ち明けて、徹底的に話しこみ、共感にまで進み、腹心の協力者にすることである。

 

 一人パートナーができたら、こんどは二人で三人目に働きかける。このようにしてジワジワと協力者を増やしていくと、ある階段からパッと霧が晴れたように、全員の協力体制ができあがり、一気に変革が進むものである。核づくりが成功の基本ということである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

③見える問題と見えてこない問題 -眼光紙背に徹するプロリーダー-

 

 問題解決にあたって留意すべきことは、見える問題、表面化した問題にばかり気をとられて、より重要な、まだ見えてこない問題、潜在的な大問題に気がつかないことである。

 

 「桐一葉、落ちて天下の秋を知る」という故事があるが、ちょっとした異常現象から、きわめて大きな問題の発生を感知し、一時的な対応策だけでなく、問題の根本的な原因をえぐり出し、思い切った対策を考えるのがプロリーダーである。

 

 新聞を読む場合でも、いわゆる「眼光紙背に徹す」といわれているように、何が書かれているかだけでなく、何が書かれていないか、さらに、なぜこのように大げさに書き立てているのか、その本当の狙いは何かを見ぬいてこそ、プロ中のプロといえるのである。

 

 このように熟慮することの大切さは、いくら強調しても、強調しすぎることはない。

 

 たとえば、今までめったに休んだことのないベテランが連続して休んだり、おとなしかった青年が急に反抗的になったりしたら、その奥にきっと何か異常が生まれていると思ったほうがいい。そうでなくても「彼等が黙せるは叫べるなり」の教えのように、心中の叫びが聞こえるようになってこそプロなのである。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

②問題がたくさんあることは問題でない -最重要問題の特定が肝心-

 

 何か行動をすると、汗が出るのと同じように問題が次々に発生してくる。問題が多いのは活動している証拠であり、それを一つひとつ解決することによって、収益が増大する儲けのタネと思えばよい。

 

 しかし、人、予算、資材、時間には限りがあるので、たくさんある問題のうち、どれを優先的に解決するかを特定することが大切になる。優先(重要)順位判断力である。

 

 「問題はたくさんあるけど三つしかない」という金言は、問題を重要順位に並べ変え、上位三つの問題解決にエネルギーを集中せよという教えである。三つが解決したら、次の三つに取り組むというやり方である。そうすると、非常に効率的に仕事が進むこと請合いである。優秀なリーダーは、最上位の七つないし十の問題解決にエネルギーと時間を集中し、八または十一位以下の問題解決は部下やメンバーにまかせるものである。

 

 ナポレオンも問題が山積している時は、最も多忙な優秀な部下にやらせるのを常としたという。それは優秀な人物は、仕事の優先順位判断にすぐれているからに他ならない。その場合、下位の問題は順次ずらして、部下にまかせていったことはいうまでもない。

 


第六章 問題解決のリーダーシップ

 

 

①問題解決の基本的なすすめ方 -何が本当の問題かで半分解決-

 

 問題解決はリーダーに求められる重要な任務である。人間と社会の問題はいわば多元多次方程式のようなもので、容易に答を出すことのできないむずかしいものである。

 

 問題解決がむずかしいのは、何が本当の問題かがなかなかよく分からない点にある。「ほんとうの問題がわかれば、答は半分出たも同じ」というのが基本である。

 

 わかりやすい例でいえば、「頭が痛い」という問題は現象であるが、これにも肉体的な頭痛と精神的な苦痛とがある。肉体的には、その原因が何であるかによって、処置が違ってくる。二日酔い、風邪、ムチ打ち症、脳腫瘍で、それぞれの治療法は大きく変わってくる。ただ「頭が痛い」というだけでは治療はできないのである。

 

 問題解決のステップはいわゆる五W二H法でやるのがいちばん効果的である。

 

 まず何(what)が問題かを特定したら、その原因(why)を究明する。原因がわかれば対策(how―どうする)を考える。しかしここで終わると解決しにくい。さらに具体策に進む必要がある。いつ(when)、どこで(where)、誰が(who―担当、責任者)、いくらで(how much―予算、経費)まではっきりして、はじめて解決に向かうのである。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

㉑マネジメントは「状況の先取り」 -変化には変化で対応を-

 

 マネジメントを一言であらわすと「状況の先取り」となる。

 

 これは「先手必勝」「先手は万手」ということであり、「先んずれば人を制す」と昔からいわれている。先行利潤がいちばん儲かることも誰でも知っていることで、後手、二番手だと、競争が激しくなり、当然利益率は低下する。

 

 ただし、先手は危険と困難が多く、成功の確率は高くない。それだけに成功するとライバルもいないから大儲けできるのである。

 

 時代はどんどん変化する。人間が存在するかぎり、需要がなくなることはありえない。ただし、その需要は時代の流れとともに、刻一刻と変化する。

 

 その変化に対して、こちらも変化する。「変化には変化」である。そしてこちらの変化が二つに分れ、状況の先取りと柔軟な対応になる。状況の先取りは積極策で、柔軟な対応になるとやや受身になる。柔軟にすべきところは、頭脳(考え方)と組織である。

 

 組織はこれまでに述べてきたように、柔軟化、動態化して変化に即応できるようにする。しかし、それには思考の柔軟化が先行しなければならないのである。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑳人に聴くより良い知恵はない -万古不易の創造性開発の鉄則-

 

 創造性開発をすすめるリーダーにとって、万古不易の鉄則は「人に聴くより良い知恵はない」であろう。このことばは、私の老恩師から教わったものであるが、三十年の経営コンサルタントの体験から、実にすばらしい教えであると確信するに至っている。

 

 このことばの根拠は二つある。一つは、人間の知能は、無限大といっていいほど奥の深いものであるから、これを引き出すほど良い知恵はないということである。二つめは、この世の中は、どこまでいっても人間の世界であり、人間が存在する以上、人間的需要に限度はないということである。

 

 したがって、需要がなくなることは決してないが、その需要は時代とともに変化する。それがどのように変化するかは、人を観察するのがいちばんいい。しかし、これからの変化を予知するには、表に現われる以前の心に聞いてみるに限るということである。

 

 未来の市場や商品やサービスは、すべて人の心の中にあり、それをニーズになる前のシーズ(種子)の段階から発見するのがプロ・リーダーなのである。こちらが真摯に聞けば聞くほど、良い知恵は無限に湧出してくる。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑲仕事がヒマなら考える時間は増大 -ジタバタするより熟慮が妙手-

 

 不幸にして、やっている仕事が時流に合わなくなり、売上が減り、ひまになったらしめたものである。これは神がじっくり考える時間を下さったのだととらえ、みんなで考えることである。ジタバタするより熟慮するほうが、ずっと知恵のあるやり方である。

 

 「三人寄れば文殊の知恵」ですばらしい知恵が続出する。「窮すれば通ず」で苦しい時ほど良い知恵が出る。自分たちのやっていることを本質的に掘り下げ、社会が自分たちに何を求めているのか、自分たちは何をなしうるのかを徹底して考えることである。

 

 昔からのトランプ・花札メーカーで目立たない小企業だった任天堂が、需要が減り、自社の社会的使命は知的な遊び道具を作ることであると再認識し、ファミコンを創造して、大手有名メーカーをはるかに上まわる高収益会社になったのも、このような思考の変換のためである。 

 

 無名の砥石メーカーが、その特殊技術を活かし、超LSIの切断機メーカーに変身して世界的な時代のパイオニアとなったディスコなど、すぐれたリーダーは古いメーカーを時代の最先端のメーカーに変身させるのである。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑱人はあまっているのに気がつかない -見方、考え方を変えることが大切-

 

 人不足というのも、こちらにとって都合よく働いてもらえる人が不足しているのであって、見方、考え方を変えれば、人はあまっているのである。気がつかないだけである。

 

 六十歳以上の高齢者は二千万人もいる。このうち半分は無理と計算しても、一千万人は、受入れ体制を変えれば、十分受け入れられる。

 

 また働きたがっている人はきわめて多いのである。家庭の主婦も半分はまだ活用されていない。学生も三人に一人は卒業しても就職しようとしなくなっている。さらに企業内失業者といって、窓際族などと呼ばれ、事実上遊んでいる人もたくさんいる。ムダをなくせば、三分の一の人は浮いてくる・・・といった具合で、いくらでも人はいる。

 

 外国人労働者の受け入れをめぐって云々されているが、あわてて導入するより、行革を進め、能率を上げ、三分の一は確実にムダになっている公務員を減らし、民間にまわすことを考えるべきである。

 

 また、他社でやる気を失っている人材をスカウトすることにも努力することである。考えようで、日本にはまだまだ人があまっていることをリーダーは知るべきであろう。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑰二十四時間勤務時代のアイデア研究 -夜行族の活用で順調に回転-

 

 ムダをなくし、労働時間を短縮することは、逆に営業時間、稼働時間を延長することである。人間一人当りの拘束労働時間は短縮するが、競争激化、商品や設備のライフサイクルが短縮する時代には、反対に価値を生む時間を増やさないと経営は成り立たなくなる。 日本が世界一の経済大国になり、世界のトップをいく金融センター、情報センターになった今、交通、飲食をはじめとしたあらゆる経済活動は、世界のために働く人々の需要にこたえ、二十四時間操業あるいは深夜操業にならざるをえない。

 

 そうでなくても人不足の時代に、人が増える交替勤務などやると、ますます人はやめていくと心配する向きもあろう。しかし、交替勤務のあり方を変えていけば逆に、人不足の解消にさえなるのである。

 

 いまの若い人の中には深夜の受験勉強を長く続けたために、夜行族になってしまった人がいるし、高齢者には早く起きて困っている人もいる。これをうまく活用し、早朝は高齢者、深夜は若い人、日中は中年というように役割分担型交替制にするといい。夜専門だと割高になるので希望者は多いものである。固定観念を打破すれば人も集まるのである。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑯ムダをムダと思わない限りムダは減らぬ -誰にとってのムダかが急所-

 

 ムダは自明のものと思っている人がいれば、それは人間や社会を知らない人である。ムダはきわめて主観的なもので、ムダだと思わない限り、その人によってはムダではない。だから、誰が何をムダと思うかによって、ムダなくしのあり方は大きく変わってくる。まわりの人がムダだと思っても、その人にとっては、そのムダな仕事をなくしてしまったら、自分が要らなくなってしまうのだから、必死になってその仕事にしがみつき、その仕事の必要性を屁理屈をこねて主張するものである。

 

 ここにムダなくしのむずかしさがある。そのムダな仕事をやっている人に、新しく、有利な仕事を与えれば、サッサとムダな仕事はやめてしまう。人間は誰でも損なこと、不利なことをやりたがるものではない。「その人に協力してもらおうと思ったら、協力したらどんな良いことがあるかを教えなさい」というのがムダなくしにも大いにあてはまる原理原則である。

 

 ムダなくしは、作業管理や原価管理のように見えて、実は、人事管理の問題であることを、リーダーはよく知っておかなければならない。

 


第五章 創造性を高めるリーダーシップ

 

 

⑮潜在〝脳力〟の引き出しで時短の実現 -職場のムダを半減して休日にする-

 

 アイデアの真の宝庫は、もちろん人間の大脳である。この〝脳力〟こそまさに無限のアイデアの泉である。

 

 人間の脳力は一生使いまくって一割も使えれば上々であるとされている。ノーベル賞受賞者クラスで14%だそうだから、凡人はその半分の7~8%というところであろう。だからちょっと奮発して、あと1~2%も活用すると凄いアイデアが出てくる。

 

 いま、日本人は働きすぎだと、労働時間の短縮が内外から強く求められている。景気がよくて人不足なのに、とんでもないというリーダーが多いが、これも、ものは考えようである。見方を変えれば、やっている仕事の半分はムダと思うようになる。そのムダを半減すれば、休日はいくらでもひねり出せるはずである。価値を生んでいる時間を削って休むのは論外だが、ムダを減らす分にはいっこう差支えはない。むしろ大歓迎である。

 

 そして減らしたムダの半分を休みにあて、残りの半分でより付加価値のある仕事に切りかえていけば、労働時間を短縮しながら収益は増大である。これがほんとうの「合理化」である。こうしなければその企業は生き残っていけないであろう。